トヨタは10年越しの改革で何を実現したのか? 「もっといいクルマ」の本質:池田直渡「週刊モータージャーナル」(6/6 ページ)
素晴らしい決算を出した裏で、一体トヨタは何をやってきたのか。サプライチェーンの混乱というアクシデントをカバーする守りの戦い、そして台数を減らしても利益を確保できる攻めの戦い。そこにあるのが「もっといいクルマ」だ。
では一体その抽象的な「もっといいクルマ」とは何なのか? という疑問は当然出るだろう。クルマの性能指標はたくさんあるし、それを数値で定義しても始まらない。0-100キロ加速が何秒だとか、スラロームの通過速度が速いとか、それも「もっといいクルマ」の一部ではあるが、全部ではない。結局のところその答えは、メーカーであるトヨタの中にあるわけではないのだ。何をもっていいクルマとするかを決めるのはお客さんだ。
そのためにトヨタは「町いちばん」を打ち出した。お客さんに徹底的に寄り添い、何を求めているかをリサーチする。困っていることは何か? うれしいことは何か? 地域やお客さんに徹底的に寄り添う。ある種のコンシェルジュサービスのようなやり方で、お客さんの求める「もっといいクルマ」をつかんでいく。
従来、そういう領域は顧客満足度を引き上げてロイヤリティーユーザーを作るアフターサービスに位置づけられてきたが、トヨタはクルマ作りの第一歩に「町いちばん」を据えた。乱暴にいえば「町いちばん」は自分たちが作るクルマとサービスを決めるための最も基本となるリサーチなのだ。
全体を振り返ると面白いことが分かる。全てのアクションがトップダウン型ではないことだ。事業の全ての基点となるのは「お客さんのニーズ」や「サプライヤーのニーズ」だ。それらを解決していくことがトヨタの事業の社会的価値であり、そこに貢献できることが全てのビジネスの根幹となるのである。
何かに似ている。それはトヨタ生産方式の最も特徴的なひとつである「カンバン方式」だ。つまり、川下が川上を支配する考え方だ。お客さんやサプライヤーという川下に対して川上の都合を振りかざさない。むしろ川下のニーズをしっかり拾い上げることで川上が変わっていく。トヨタはそのトヨタ生産方式の基本に忠実なやり方で、当期の大逆風の決算を見事な成績でクリアしてみせたのである。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミュニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う他、YouTubeチャンネル「全部クルマのハナシ」を運営。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答も行っている。
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