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クルマの顔つきは、どこまで売れ行きに影響するのか高根英幸 「クルマのミライ」(3/3 ページ)

デザインには、人の心を動かす力がある。それはクルマであっても同じで、これだけ自動車市場が充実して性能や品質が粒ぞろいの中にあっても、デザインは売れ行きを決める重要な要素であり続けている。

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大きくて立派なグリルが人気を博すワケ

 近年、軽ハイトワゴンやコンパクトミニバン、ミニバンで人気を集めてきたのが、フロントグリルを大きくしてヘッドライトなども強調した、通称オラオラ顔と呼ばれるフロントマスクだ。

 どうせ買うなら高そうに見えた方がいい、強そうに見える顔つきに魅力を感じる……。そうしたユーザーを積極的に取り込もうとしている意図が、その背景に見てとれる。

 クルマに乗ると性格が荒くなる、という人もいるが、そうした人はこうしたクルマを選ぶ傾向にあるのではないだろうか。心理学でドレス効果と呼ばれる、身に付けるモノで振る舞いが変わるのはクルマにおいても通じるのだから、あおり運転が社会問題となっている現在、自動車メーカーも今後は配慮していく必要があるだろう。

 フロントマスクが売れ行きにいかに影響を与えるかを端的に証明しているのは、現在のトヨタ・アルファードとヴェルファイアの販売台数の違いであろう。両車はデザインを除いて基本的に同じクルマで、いわゆる兄弟車種だ。その中で、先代までは常に過半数を占めるほど人気だったヴェルファイアが、現行モデルでは何とアルファードの10分の1程度にまで落ち込んでしまった。


アルファード(トヨタ提供)

ヴェルファイア(トヨタ提供)

 先代まではトヨタの販売チャンネルごとに専売車種が設けられ、ヴェルファイアはトヨタ ネッツ店だけで販売されており、アルファードはトヨペット店という老舗の実力店が多いチャネルで扱われていた。それにも関わらず、ヴェルファイアの方が売れていたのは、偏にフロントマスクのデザインがユーザーに支持されていたからだ。

 現行モデルでは、先代で人気を博した薄いヘッドライトを二段にレイアウトしたスタイルを踏襲しつつ、全体的にスクエアでエッジの効いたフォルムに仕立てられた。アルファードとの棲み分けのために若々しさを盛り込んで、比較的若年層にウエイトを置いたクルマを目指したのだろうが、販売の方は振るわなかった。

 これはヴェルファイアのフロントマスクが良くないのではなく、アルファードのデザインが秀逸過ぎた、ということだろう。それくらい、現行のアルファードのフロントマスクは良く出来ている。まるで中世の騎士が身に付けた兜を想わせるような、堂々としたフロントグリルを中心としたマスクは、幅広いユーザーに支持されて大ヒットとなったのである。

 しかも発売後7年を経過したLLサイズのミニバンでありながら、未だ乗用車の販売台数で10位以内(2022年5月は5位!)をキープしているのは、驚異的としかいいようがない。

 これぞデザインの持つ力であり、クルマに対してはお金をかけてもいいという、クルマによってステータスを得ているユーザーの心を掴み続けることを可能にするのだ。クルマ社会のヒエラルキーを形成しているのは、ブランドや価格だけでなく、デザインの影響力が非常に大きいのである。

筆者プロフィール:高根英幸

芝浦工業大学機械工学部卒。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、テスターとして公道やサーキットでの試乗、レース参戦を経験。現在は日経Automotive、モーターファンイラストレーテッド、クラシックミニマガジンなど自動車雑誌のほか、Web媒体ではベストカーWeb、日経X TECH、ITmediaビジネスオンライン、ビジネス+IT、MONOist、Responseなどに寄稿中。近著に「ロードバイクの素材と構造の進化(グランプリ出版刊)、「エコカー技術の最前線」(SBクリエイティブ社刊)、「メカニズム基礎講座パワートレーン編」(日経BP社刊)などがある。企業向けやシニア向けのドライバー研修事業を行う「ショーファーデプト」でチーフインストラクターも務める。


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