クルマの顔つきは、どこまで売れ行きに影響するのか:高根英幸 「クルマのミライ」(2/3 ページ)
デザインには、人の心を動かす力がある。それはクルマであっても同じで、これだけ自動車市場が充実して性能や品質が粒ぞろいの中にあっても、デザインは売れ行きを決める重要な要素であり続けている。
特にフロントマスクはクルマにとって一番重要だ
クルマのデザインで最も気を使うのは、やはりフロントマスクであろう。クルマを見た時にまず印象に残るのはフロントマスクであることが圧倒的に多く、そのクルマのイメージを決定付けるものとなる。
人間でも第一印象が評価の9割を占める、といわれている。ギャップ萌え、というのもあるが、基本的には第一印象の評価を変えるのは大変だ。
とはいえクルマは工業デザインであり芸術作品ではないから、当然のことながら機能のために盛り込まれているデザインもある。
ボディでいえば、以前紹介したピラーやウインドウの形状、ドアハンドルやミラーなどは機能を追求しつつもデザインとの両立が求められる。プレスライン(メーカーによってはキャラクターラインと呼ぶ)は平面的なボディにメリハリを与えるだけでなく、剛性を高めるためにも盛り込まれている。
フロントマスクでは、機能的にデザインに影響を与えるファクターとしては剛性ではなく空力性能や冷却性能といったもので、さらには灯火類など盛り込まなければならない制約もある。
そしてこれまで発売された中でも、フロントマスクにより不人気となってしまったクルマは少なくない。代表的なものとしてはホンダ・インテグラの二代目前期モデルが挙げられる。
1993年に発売されたホンダ・インテグラ。ご覧の通り、バンパーより上はヘッドライトの穴が空いているだけというシンプルなフロントマスクに仕立てられた。斬新すぎるデザインは不評で、マイナーチェンジにより先代に近いイメージに改められた(写真OceanProd - stock.adobe.com)
これはグリルレスに丸型4灯ヘッドライトを組み合わせるという大胆なデザインで、北米市場では受け入れられたかもしれないが、日本では奇抜すぎて抵抗を覚える人が多かったようだ。2年後のマイナーチェンジでは、フロントマスクを横長のヘッドランプとフロントグリルを与えた先代のイメージに戻すほどの大手術を行ったのだった。
グリルレスというデザインは空力性能を優先し、冷却性能は従来あるべき位置のフロントグリルではなく、アンダーグリル(バンパーの下に備えるグリル)で冷却性能を確保して、バンパーより上は後方へと空気を受け流すことを狙ったものだ。しかし、機能よりも特異なデザインが先行してしまい、敬遠されるケースが目立つ。
グリルレスのデザイン自体はクルマの黎明期から登場している。しかし近年の成熟した自動車市場では、目新しさを狙ったデザインとして時折挑戦されてきたが、話題にはなりつつもヒットに結び付いたことは聞いたことがない。
EVが続々と登場している現在、グリルレスは市民権を得てきたように思えるが、まだまだ違和感を覚える人も少なくないようだ。
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