毎年「賃上げ」なのにいつまでたっても日本企業が低賃金なワケ:2つの理由を考える(3/3 ページ)
毎年賃上げがなされているにも関わらず、日本の賃金指数は横ばいです。なぜなのでしょうか?
転職志向の低さが注目されている
もう一つ、賃金が上がらない理由として最近注目されているのは、日本人の転職志向の低さです。図4は厚生労働省の『雇用動向調査』にみる転職入職率(労働者全体に占める転職入職社の割合)です。終身雇用は依然として健在であり、転職入職率が上がる気配は全くありません。
人材マネジメントを専門とする、青山学院大学大学院の須田敏子教授は、日本の賃金が上がらない状況は、転職の少ない日本の労働市場にこそ原因があると述べています。賃金を上げなくても採用に困ることがなく、社員は定着し、一生懸命働いている。これでは賃金を上げる必要がないというわけです(※3)。
(※3)須田敏子、森田充『持続的成長をもたらす戦略人事』/経団連出版、2022年
ビジネスパーソンの転職意欲が低いことは、あまり勉強熱心でないことからもうかがえます。リクルート・ワークス研究所が行った『全国就業実態パネル調査2022』によると、21年に、自分の意思で、仕事にかかわる学びを行った人は、雇用者(正規の職員・従業員、非正規の職員・従業員、役員・自営業主、家族従業者・その他の雇用形態)で33.9%、「正規の職員・従業員」で38.6%にとどまっています。調査は学びの内容について「本を読む、詳しい人に話を聞く、自分で勉強する、講座を受講する」などを例示しています。66.1%の雇用者は、1年間に一度も、これらいずれの行為もしていなかったということです。
今どき知識や技能のレベルを上げずに、賃金増加につながる転職ができると思っている人はいないはずであり、勉強意欲の低さは転職意欲の低さを反映していると考えられます。
賃金が上がることは良いことか
賃金が上がって喜ばない人はいないでしょうが、話はそう簡単ではありません。米国では、15年から21年の6年間で賃金が12%上がりました。22年に入ってさらに勢いづいており、2月は前年同月比で7.3%上がっています(※4)。
(※4)労働政策研究・研修機構のWebサイトより
しかしその恩恵は富裕層に偏っています。『NEWSWEEK日本版』3月29日号は、ブルッキングス研究所の報告書が次のように述べていることを報じています。1979〜2016年の、37年間の実質賃金上昇率は、トップ層が27.41%、上位中間層は11.5%、中間層は3.41%、下位中間層が0.77%、最下位層はマイナス0.98%です(※5)。中間層以下の賃金上昇率は日本と大差ありません。全ての労働者の賃金が万遍なく上がるわけではなく、富裕層の賃金がさらに増えて 平均を押し上げているだけです。
(※5)『賃上げを享受するのは富裕層』/肥田美佐子 NEWSWEEK日本版 2022年3月29日号
いつか日本も賃金が上がるようになっても、中間層は置き去られ、富裕層の賃金だけが上がるようだと、手放しでは喜べません。
著者紹介:神田靖美
人事評価専門のコンサルティング会社・リザルト株式会社代表取締役。企業に対してパフォーマンスマネジメントやインセンティブなど、さまざまな評価手法の導入と運用をサポート。執筆活動も精力的に展開し、著書に『スリーステップ式だから、成果主義賃金を正しく導入する本』(あさ出版)、『会社の法務・総務・人事のしごと事典』(共著、日本実業出版社)、『賃金事典』(共著、労働調査会)など。Webマガジンや新聞、雑誌に出稿多数。上智大学経済学部卒業、早稲田大学大学院商学研究科修士課程修了。MBA、日本賃金学会会員、埼玉県職業能力開発協会講師。1961年生まれ。趣味は東南アジア旅行。ホテルも予約せず、ボストンバッグ一つ提げてふらっと出掛ける。
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