毎年「賃上げ」なのにいつまでたっても日本企業が低賃金なワケ:2つの理由を考える(2/3 ページ)
毎年賃上げがなされているにも関わらず、日本の賃金指数は横ばいです。なぜなのでしょうか?
「賃上げ=定期昇給+ベースアップ」です。定期昇給とは、通常は年に1回、定期的に行われる昇給のことです。今どき、年齢で一元的に賃金を上げる会社はほとんどありませんが、話を簡単にするために「賃金=年齢×1万円」という、完全な年功序列の会社があったとします。その会社の社員は賃金が毎年1万円上がります。この1万円が賃上げのうち定期昇給分です。
これに対してベースアップとは、「賃金=年齢×1万円」を「賃金=年齢×1万100円」にするというように、賃金決定の基準そのものを引き上げることを言います。この場合30歳の賃金は30万円から30万3000円に上がります。その差である3000円がベースアップ分です。
この場合、30歳の社員は定期昇給で1万円、ベースアップで3000円、賃金が上がります。これらを合計した1万3000円が賃上げ額です。率にすると賃上げが4.48%、定期昇給が3.45%、ベースアップが1.0%です。
仮にベースアップが行われなかったとしても、賃上げ率=定期昇給率で3.45%になります。「今年の賃上げ率は平均○○%でした」と毎年報道されているにもかかわらず賃金水準が上がっていないのは、このような理由によります。
理由の一つは労働生産性が上がらないこと
賃金が上がらない理由として、一度決めた賃金は下げられない。だから逆に上げられないとする説、「良い仕事があったら非正規でも働きたい」と考えている人がたくさんいるので、正社員の賃金は上げる必要がないとする説、賃金が低い高齢労働者が増えて全体を押し下げているとする説、企業の教育訓練投資が減っているので、能力が高まらないから賃金も上がらないからだとする説などがあります。おそらく全てが相互に影響しあっているのでしょうが、全ては扱いきれないので、今回は2つに絞って考えてみます。
一つは労働生産性が上がらないことです。賃金の源泉は付加価値です。付加価値とは企業内で新たに生み出された価値のことです。例えばアンパンは、考えようによっては小麦粉とあずきの塊です。しかし同じ量の、ただの小麦粉とあずきよりははりかに高い値段で売れます。それはパン屋さんが、おいしさという価値を新たにつけたからです。
実務的には、付加価値は「営業純益(営業利益−支払利息等)+役員給与+役員賞与+従業員給与+従業員賞与+福利厚生費+支払利息等+動産・不動産貸借料+租税公課」という式で計算します(※1)。
(※1)付加価値は財務諸表規則で定義された用語ではないので、算式は統一されていません。ここで紹介したのは財務省の『法人企業統計』が用いているものです。
付加価値を従業員数で割った値、つまり従業員一人あたり付加価値のことを労働生産性と言います。労働生産性が高い企業ほど、従業員に高い賃金を払うことができます。図3は法人企業統計による労働生産性の推移を示したものです。1990年代からほとんど上がっていません。
残念ながら日本は国際的にみても労働生産性が低い国です。日本生産性本部の『労働生産性の国際比較2021』によると、日本の一人あたり労働生産性(20年)はOECD(経済協力開発機構)加盟38カ国中28位で、OECD平均の78%にとどまります。順位も年々低下しています。28位という順位は70年以降で最も低い数字です。
労働生産性について研究している、学習院大学の滝澤美帆教授は、日本企業の労働生産性が低い理由として
- (1)企業規模が総じて小さいこと
- (2)規制緩和が遅れていること
- (3)事業が国内市場に集中して海外進出が遅れていること
- (4)IT化が遅れていること
などを挙げています(※2)。
(※2)「米国に空けられた大きな差。低生産性国ニッポンの惨状」/『Wedge』2017年4月号
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