今こそ、小売店舗改革 メーカーと消費者に選ばれ続ける「売り場」を実現する3つの視点:実店舗、劣勢か(2/2 ページ)
メーカーと小売企業の関係性が少しずつ変わり始めている。メーカーは店頭販売への依存度を減らし、通販サイトやD2Cなどのオンライン販売強化に急ぐ。店舗の「売れる棚の取り合い」よりも「インターネット上でどう勝ち抜くか」の比重が高まっているのだ。「売り場」の力をメーカーに訴求するために小売企業はどのような取り組みをすべきか?
「在庫があれば売れたのに……」を減らすには
次は需要量の分析について考えてみたい。こちらも最初に思い浮かぶのはPOS分析だが、ここにも限界はある。「在庫があれば売れていたはず」のデータを取ることができないのが欠点だ。論理在庫と需要予測を基に、大体の実在庫数を算出することもできなくはないものの、数値の精度に心もとなさは付いて回るだろう。
事前に顧客側が数量を入力しておく仕組み、例えばクリック&コレクト(ECサイトで商品を購入し、実店舗や宅配ボックスなどで受け取る仕組み)やネットスーパーなどのクラウドワーカー系の仕組みで実際の需要量データは取得可能だ。店舗の実在庫量を超えた場合でも「本来売れていた量」が把握できるため、今後の在庫量や品ぞろえの適正化につなげられるだろう。さらに、店舗端末などで品出し件数実績データを取得できれば、バックヤードにあるのか、棚にあるのかが判別できるため、「品出しができていれば売れた量」を正確に把握できるようになる。
最後に「品ぞろえがあれば売れたのに」という観点で、自店舗ではなく近隣の競合店でのPOSデータも集めることができれば、在庫管理の精度の高さは格段に上がる。現段階で実現性が高い手段はレシート買い取りであろう。小売が主導する事例は多くはないものの、この仕組みを基にデータビジネスを展開する企業は増えてきている。
求められる接客
最後は接客の観点から解説する。こちらは、「投入人員量」と「接客品質」に分けて考えられる。投入人員量の観点では、AIを活用したシフト作成に取り組む動きが主流である。パナソニックが開発したCYTIS Shift for Retailなどが挙げられる。同社はイオンリテールと共同で同サービスの仕様を一部カスタマイズした「AIワーク」を設計。2022年2月にイオンリテールの総合スーパー62店舗に導入した。今後は、各種実績データの作成とセットで普及が進むと推測される。
前述の既存店舗端末の拡張もここに繋げることができる。接客にどれだけ人員を割いているかが分かれば、省人化対策なども検討可能だろう。
次に接客品質である。人間が接客する限り、感情が絡むため俗人的であり再現性の確保が難しい。しかし、店舗運営における重要性は高く、品質向上施策を講じる必要がある。ホテルや飲食店のように、小売店舗でもこの領域の存在感が増してくるはずだ。
中国地方の一部で総合スーパーを運営する天満屋ストア(岡山市)は、収集した定量データから曜日別・時間帯別での接客課題を特定する方法を採用している。口コミなどの定性情報を収集するサービスを展開する企業も増えてきている。自店の接客スタイルをデータ化することで、リピート客の増加なども見込めるかもしれない。そうすることで、メーカーからの期待値向上や良好な関係構築にもつながっていく。
ここで挙げた事例は、起点となる観点は異なるものの、どこかで聞き覚えがある取り組みでもあるはずだ。導入コストや現場で十分に使いこなせるかなどの問題以外にも、小売業の商習慣や考え方が障壁となっている場合もあるだろう。実現・展開・定着に向けては、現場への丁寧なアプローチだけでなく、実店舗という強みにあぐらをかいている現状からの脱却という意思も求められる。
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