「上場直前まで苦しんだ」ランサーズ小沼CFOが浴びたIPOの洗礼:対談企画「CFOの意思」(3/4 ページ)
「CFOの意思」第3回の対談相手は、ランサーズで執行役員CFOを務める小沼志緒氏。「上場直前までトラブル続き」だったというIPOから学んだ、IPOでやるべき2つのこととは。「CFOになる」ことを目指してキャリアを歩んできたのはなぜなのか?
「CFOになる」ことを目指してキャリアを積んできた
小沼氏は05年に新卒で日興シティグループ証券に入社。大学時代から「将来はCFOになりたい」という夢を持っており、最短でその夢を叶えられる道を探って投資銀行部門にジョインした。例えるなら、「スポーツを上達させるための筋トレ」のような経験が積めるのではと考えたためだったという。
3年半ほどはがむしゃらに働いたが、4年目で会社はリーマンショックに直面。親会社のシティバンクが金融不況の影響を受け、日興シティグループ証券の持ち分を三井住友銀行に売却。当時、金融セクターの担当をしていたが、三井住友グループの100%子会社になることで担当している顧客との関係性が変わる中、もともと「投資銀行でずっとキャリアを重ねるのではなく、いつか事業会社側に転職したい」と考えていたこともあり、退職。
辞めてから半年ほどは、夫の渡米に帯同。投資銀行で酷使した体を休めつつ、学校に通い語学力を高めた。リフレッシュして帰国後、リーマンショックの影響で採用市場が冷え込む中だったが、リクルートに入社した。
嶺井: そもそも大学時代にCFOを目指したきっかけは何だったのですか。
小沼: 大学では商学部の企業価値分析ゼミに在籍しており、先生が「君たち、CFOを目指しなさい」と言ったことがきっかけです。よく「社長になりたい」という夢を語る人がいますよね。それとあまり変わらないノリだったと感じています。
三枝匡さんの『V字回復の経営』なども読んでいたので、会社の企業再生などを担うことができるCFOの価値に憧れを抱きましたし、そういう役割を将来的に担えるようになりたいという思いもありました。
リクルート時代に「事業も分かりたい」と志望するも……
嶺井: 小沼さんはCFOに就任されたのは現在のランサーズが初めてですが、大学時代からCFOを目指す中で、リクルートの財務部でIPOをご経験されていたんですよね。
小沼: リクルートの前は投資銀行でアドバイザリーをしていましたが、アドバイザーというのはあくまでも第三者的な立場です。もちろんプロの知見を持っているからこそできるアドバイスを行って対価を得ているので役割に問題があるわけではありません。しかし、将来的にCFOを目指す私からすると、結果に責任を持つわけではないため、アドバイザーのままだと意思決定の経験を積みきれないと感じていました。
それなら事業の当事者として責任を負う立場で意思決定の仕方を学びたいと思い、事業会社を選ぶ転職活動をし、リクルートに入社しました。
リクルートでは財務部に配属され、たまたまIPOの準備をしているところだったので、それに関連した業務や、M&A、銀行の借り入れ、マネジメント業務の経験など、一通りのことをやらせてもらいました。
嶺井: そして、17年にはランサーズへ転職されました。きっかけは何だったのでしょうか。
小沼: 将来的にCFOになりたいのであれば、財務や管理のことだけでなく、事業のことも分かっている必要があると考えていました。これは諸説あると思いますが、やはり経営者として事業運営に携わっていく以上必要だと思いますし、リクルートでもキャリア面談において「事業部側の知見を高めるべき」というフィードバックをよく受けていました。
そのため事業部側に行きたいと志願し、異動させてもらいましたが、リクルートという経験豊富な事業メンバーが集まる組織において、それまで財務部にいた人間に事業部側で大きな責任をいきなり任せられる訳もありません。提示していただいたのはほんの一機能だけを担うようなポジションでした。
半年ぐらいはそのポジションで成果を出そうともがきましたが、リクルートの中で誰もが認める成果を出してもっと上のポジションを提示してもらうには、相当時間がかかるし、優秀なライバルたちより抜きんでるためには政治力も必要になる。ちょうど2人目の子供を産んだばかりの自分としては1分1秒も無駄にしたくないという思いがありましたし、政治力という苦手分野で勝てる可能性の低さなども鑑み、より確実にやりたいことができる環境に身を置こうと決め、転職活動をすることにしました。
ランサーズが提示してくれたのはCFO候補というポジション。そのポジションのチャレンジングさとやりたいことが確実にできる環境に惹かれ、リクルートを辞めてランサーズに転職することを決めました。
嶺井: CFO候補としての最初のミッションは何だったのでしょうか。
小沼: IPOでした。実は、当時すでにランサーズにはCSOや、コーポレート管理部長もいたので、CFOは必要なんだろうかと思っていたんです。
たまたまランサーズがIPOを目指しているタイミングで、IPO準備をリクルートでしていた旨を面接お話しして、「CFO候補兼、IPO責任者候補」として迎え入れられました。
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