人手不足なのに黒字リストラを敢行する企業 「働かなくなったおじさん」が標的に:企業の思惑は?(2/3 ページ)
「人が足りない。人を募集しても優秀な人がこない」という悩みを話す経営者が増えている。人手不足を嘆く一方、黒字リストラを敢行する企業もある。「働かなくなったおじさん」がその標的になっているわけだが、なぜなのだろうか?
大手企業に生息する働かないおじさん
働かないおじさんは、人材豊富な大企業ならでの現象です。中小企業は常に人材が不足しており、オペレーションマニュアルなどもないことが多いのでさまざまな仕事に追われています。なぜ大企業では入社時に優秀だった人が、働かなくなってしまうのでしょうか? それは40代も半ばにもなると、出世の限界が見えてしまうからです。40代半ばで課長になっていない人が部長や役員になれる可能性は、限りなくゼロに近いです。
技術者のように担当している仕事が好きで意欲が落ちない人もいますが、大半の人は将来が見えた時点でモチベーションが低下してしまいます。役職に就けないだけでなく、花形の仕事は優秀な若手社員に回されます。その結果、「現状維持でいい」という思考になり、新しいことにチャレンジしなくなるのです。そのような人は出世競争から取り残されるだけでなく、社内の雰囲気にも悪影響を与える可能性があります。
さらに最近はテレワークの導入により、「部長代理」「課長代理」といった部下なし管理職は、マネジメントも実務もしていないという事実が露呈し、存在価値が疑問視されるようになりました。出社していれば、グループの中で潤滑油的な役割を果たしていたのかもしれませんが、テレワークのように個人の役割が明確になると不要と判断されてしまいがちです。
黒字リストラで浮いた費用はどこにいく?
黒字リストラを実施する際は、早期希望退職募集などという名目で退職金を上乗せされるケースが大半です。中央労働委員会が2021年に発表した、1000人以上の大手企業を対象とする「退職金、年金及び定年制事情調査」から、早期退職制度を導入している企業84社のうち、「82社が退職一時金の優遇あり」と回答していることが分かりました。
退職金の上乗せ額は、経営状況、募集理由、対象者の年齢など諸条件により異なるものの、大半の企業で最低12〜24カ月分の給与を上乗せします。さらに再就職を成功させるため、転職支援会社を退職者に紹介する場合は、支援会社に支払う経費も発生します。従業員に退職金を支給するために退職引当金を積みたてている会社は少なくないですが、その金額を上回る出費が発生します。
それでも黒字リストラを実施するのは、定年制度の見直しや継続雇用制度の導入により年配社員にかかる人件費を減らせるからです。20年の高齢者雇用安定法の改正により、努力義務ではあるものの、企業は70歳まで従業員の雇用確保の検討を迫られました。定年制度が延長されれば、その分の人件費は増加しますが、中高年の社員数を削減できれば、人件費の増加は最小限に抑えられます。
では、その浮いた費用は何に当てられるのでしょうか? それは20〜30代の若手社員の給料です。前述したように年功序列が崩れたといえ、まだまだ歴史がある日系企業では、その傾向は残っており、20代社員の給料は低く抑えられがち。外資系企業やベンチャー企業に転職する社員も出てきました。優秀な社員確保のため、新卒の給与を上げる会社もあります。
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