楽天モバイルの新料金プランがスタート 0円廃止で今後はどこに向かうのか:プライシングのプロが解説(4/4 ページ)
楽天モバイルが新料金プラン「Rakuten UN-LIMIT VII」を5月13日に発表しました。この状況に対しインターネット上では批判の声も続出していますが、プライシングの専門家である筆者には、批判を覚悟したうえでの楽天の強い意思と思惑が感じ取れます。
プライシングの要諦は「誰」に「何」を「いくらで」売るか
適正価格を考える場合、「いくらで」売るか、すなわち金額をいくらにするのかに焦点が当たりがちです。しかし、これまで記した通り、顧客セグメント毎(誰に)にサービスに対して求めている価値(何を)や、それに対する支払い意欲が異なります。価格によって提供するべき価値(ビジネス)は変化するのです。
そこで、まず自社の顧客はどんなセグメントに分かれているのか、またそのセグメント毎にどういう価値を感じているのか(どういう利用の仕方をしているのか、どれくらいサービスを利用しているのかも含む)を、ユーザーインタビューなどの定性調査で、適切に把握する必要があります。
今回のケースでいうと、居住地・年収・自宅Wi-Fiの有無やスマホの利用時間とその利用用途(通信量が変わるため)、同居人数(家族割などの関係)、利用している付帯サービスなどの要素でセグメントが変わります。
次にPSM分析などの定量調査でそのセグメントごとの支払い意欲を把握していく。PSM分析とは、潜在的な層を含む購入者に対し、4問のアンケート(高いと感じ始める金額・安いと感じ始める金額・これ以上高いと検討に乗らない金額・これ以上安いと品質に不安を感じる金額)を行い、その回答結果をグラフに累積してプロットし、適正価格を探っていく分析手法です。
PSM分析では、アンケートの回答結果をグラフに累積してプロットし、その交点から適正価格を考えるというのが通説となっていますが、交点に特に意味はない、顧客セグメント毎に支払い意欲は異なるため、ターゲット外のデータが混ざり結果がぶれるなどの理由から、あまり有効な方法とはいえません。
そのため実際のビジネスシーンで活用するには、定性調査で得られた顧客セグメント・ケースごとに分析を重ねていく必要があります。実際に進めると、非常に骨の折れる作業が待っています。ただ、価格がビジネス上の大きな武器となるのは間違いありません。
著者プロフィール
高橋 嘉尋(たかはしよしひろ)
プライシングスタジオ代表取締役社長。
これまでリクルートをはじめとする大手企業から、「money forward」など中小企業まで数十サービスの価格決定を支援。
また、公的機関、学会、雑誌などへのプライシングに関する論文提出や講演会、寄稿などを通じ、プライシングに対するノウハウを積極的に発信。
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