「全員70歳まで雇用は難しい」──改正高齢法から1年、明らかになる企業のホンネ:改正高齢法の実情は(4/4 ページ)
70歳までの就業機会の確保を努力義務とする改正高年齢者雇用安定法(高齢法)が2021年4月に施行されて1年が経過した。企業の対応の現状や、担当者が抱えるホンネとは? 人事ジャーナリストの溝上憲文氏が解説する。
「再雇用がダメならフリーランス」では通用しない現実
経団連の調査では創業支援措置の業務委託契約による就労を検討している企業が18.7%もあった。定年後研究所のヒアリング調査でも「昨年(20年)より、65歳以降1年更新の『業務委託方式』をジョブベースで本人とマッチングする運営として実験的にスタートしており、当該層の柔軟な働き方ニーズに応える運営にしたいと考えている。現時点では、『70歳就業確保法』への対応の選択肢の一つとして検討予定である(不動産業)」という企業もある。
業務委託は個人事業主として契約し、いわゆるフリーランスになることで働き方の自由度が高まる。65歳以上になると健康や家族の事情などフルタイム勤務が難しい人も発生するかもしれない。企業も業務委託のほうが社会保険料などの法定福利費を抑制できるメリットもある。
ただし再雇用がダメならフリーランスとして働かせてもらおうというわけにはいかない。
業務委託を検討している広告関連企業の人事部長は数が限定されるという。
「1つは委託する仕事の切り出し方が難しいこと。もう1つは外注に出すほどの専門性を持つ人がそんなにいるかという問題もある。例えば人事の分野では、労働法制に通じた人が会社の就業規則の改定・変更などの手続きや労基署との対応をしてもらう仕事であれば業務委託できるが、どうしても人数が限定されるし、当然、希望者全員というわけにはいかない」
考えてみれば確かにうなずける話だ。そもそもこれまで外部でも通用する専門性を磨く育成をしてこなかったのに65歳を機に個人事業主として自社以外に他社でも仕事を受注し、収入を得ていくことは難しいだろう。
仮に業務委託契約による就労を企業が選択肢に加えても、ごく限られた人材になりそうだ。業務委託による就労を拡大していくには少なくとも60歳から専門性を意識させる仕事の与え方の工夫や、兼業・副業による外部との接点を通じて自らの市場価値を高めることが必要だろう。
実は企業が社員を「70歳まで雇用したくない」背景には、自社の現行の65歳までの継続雇用制度(再雇用)に問題を抱えているという事情もある。次回は再雇用制度がどんな問題を抱えているのかについて検証したい。
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