実は「紙」じゃなかった! 書き心地“半端ない”「投票用紙」の正体と開発秘話:誕生から35年(1/4 ページ)
参院選に採用されている「投票用紙」の素材や開発秘話を取材した。
安倍晋三元首相が応援演説中に元自衛官の男に暗殺されるという衝撃的な事件に日本中の注目が集まる中、7月10日に参議院選挙の投開票が行われる。各党の公約や投票結果の行方に注目が集まる一方で、有権者が投票先を記入する「投票用紙」にも注目が集まっている。各投票所で有権者に配布される投票用紙は、ある企業の独自技術で製造されたものだからだ。1986年の誕生から約35年。有権者からは「書き心地がいい」などと好評だ。そんな注目の投票用紙の製造を手掛けるユポ・コーポレーション(東京都千代田区)に、素材の正体と開発秘話を聞いた。
素材は「プラスチック」 選挙機器メーカーと共同開発
取材に応じたのは、投票用紙の開発を手掛けた、同社の鹿野民雄加工品部長。今回の参院選で同社は、2億枚(推計)にも及ぶ投票用紙の製造を一手に引き受けている。「この投票用紙の正体は何ですか」。鹿野部長にズバリ聞くと「投票用『紙』だが、実は紙ではない。分野でいうと合成紙に該当する。簡単にいうとフィルム、つまりプラスチックだ」と答えた。
素材名は企業名と同名の「ユポ」で、共同開発した、選挙機器メーカーのムサシ(東京都港区)から「開く投票用紙」という名称で販売されている。
紙との違いは何か。鹿野部長は「紙とユポは製造方法が全く異なる」と話す。簡単に解説してもらったところ、紙は木材から採取した繊維「パルプ」などを混ぜた液体をシート上に薄く伸ばし、乾燥して水分を抜いたものを指すという。
これに対し、ユポは主原料であるポリプロピレンに、少量の添加剤を混ぜ、熱で溶解した上で、紙同様にシート上に薄く伸ばして製造する。最終的な製造方法は近いものの、木材と脱水が必要な紙に対し、ユポは化学原料を使用し、脱水という工程が不要な点が大きな特徴だ。
製造も紙よりも技術的に難しいようで「空気の層をコントロールし、軽量化するとともに、厚さを均一にするのが難しい」。鹿野部長は製造の難しさをこう語る。
優れた書き心地を実現する企業秘密の配合
SNS上では、ユポ製投票用紙の書き心地を賞賛する声が多い。その秘訣を鹿野部長は「ユポは三層構造になっており、表面を無機充填剤などでコーティングしている。表面に散りばめた粒子と、鉛筆の摩擦によって優れた書き心地を実現している」と説明する。
無機充填剤という聞き慣れないワードが出たため、詳しく聞くと「石のようなものをイメージしてもらえると。学校の運動場のライン引きに使われる白い粉のように細かく砕き、ユポの表面に付着させている」という。具体的な物質名や配合比率については「企業秘密なので明かせない」(鹿野部長)とした。
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