「中小企業淘汰論」はなぜ“炎上”しにくくなったのか 日本に残された時間:スピン経済の歩き方(2/6 ページ)
「中小企業は減らしたほうがいいよ」――。こうした「中小企業淘汰論」を掲げても、ネット上で炎上しにくくなっている。数年前であれば、すぐに燃えていたのに、なぜ話題になりにくくなったのか。背景にあるのは……。
批判の声が減少
ただ、そういう皆さんの「お怒り」を見て率直に感じるのは、この手の提言を「中小企業淘汰論」と騒ぐ人が3年前からずいぶん減ったなあ、ということだ。
例えば2019年ごろ、「中小企業淘汰論者」と一部の人たちから攻撃されたのは、菅政権のブレーンとして知られた元金融アナリストのデービッド・アトキンソン氏だ。といっても、アトキンソン氏は「中小企業を淘汰せよ」なんてことは一言も言っていない。
以前からアトキンソ氏は、日本経済を復活させていくには、日本企業の99.7%を占める中小企業の生産性向上が不可欠だと主張しており、海外の生産性にまつわるデータや最新の経済論文で分析を進めたところ、中小企業の再編・統合を促していくしかないという結論に至った。
中小企業の間でM&Aや、大企業との吸収・合併が進めば必然的に、中小企業の絶対数は減っていく。しかし、それぞれの企業の規模は大きくなるので、賃金もあがって生産性も向上につながっていく――。
つまり、アトキンソン氏の提言というのは、「がんばっている中小企業をもっと大きく成長させて、従業員にもっとたくさん賃金も払えるようにして、日本経済を活性化していこう」という至極真っ当なものだった。
しかし、そんな「中小企業再編論」はどういうワケか、「アトキンソン氏は日本の生産性向上のため、生産性の低い中小企業は死ねと言っているぞ」という優生思想的なストーリーに置き換えられて、「中小企業淘汰論」と呼ばれ、菅政権憎しの野党やリベラル文化人から総攻撃を受けることになる。
筆者もこの時期、『「日本経済が成長しないのは、中小企業が多いから」は本当か』(19年10月8日)など多くの記事でアトキンソン氏の主張を紹介したことがあるが、いつもネット上でボロカスに叩かれたのをよく覚えている。(関連記事)
ちなみに、その攻撃は今も続いていて、現在もSNSで一部の人たちはアトキンソン氏にからんでは差別的な誹謗中傷をしつこく続けている。
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