「中小企業淘汰論」はなぜ“炎上”しにくくなったのか 日本に残された時間:スピン経済の歩き方(4/6 ページ)
「中小企業は減らしたほうがいいよ」――。こうした「中小企業淘汰論」を掲げても、ネット上で炎上しにくくなっている。数年前であれば、すぐに燃えていたのに、なぜ話題になりにくくなったのか。背景にあるのは……。
新陳代謝があって国の経済は活気づく
「淘汰だ」「倒産だ」「もう限界だ」という悲痛な叫びばかりをマスコミがピックアップして報じるので、日本の中小企業経営者は世界一シビアな戦いを強いられている、気の毒な人たちだというイメージを抱いている人も多いかもしれないが、実は他の先進国の中小企業経営者から見れば、「ワオ! 日本って社会主義みたいだね」とドン引きされるほど、国による手厚い「保護」を受けている人たちなのだ。
例えば、日本企業の6割は「赤字」ということで、法人税を払っていない。この多くは企業の99.7%を占める中小企業であることはいうまでもない。また、「事業承継・引継ぎ補助金」など経営を手助けしてくれるあまたのサポートが受けられる。
さて、そんな風に日本は世界トップレベルで中小企業を支えて、倒産も少ないのだから、理屈上、日本経済は世界トップレベルで力強いものになっていなくてはおかしい。
日本では64年の中小企業基本法以来、中小企業保護政策に莫大な税金が費やされてきたが、それは「日本の中小企業は雇用と地域経済も支えているので、とにかく国が中小企業を税金で支えれば、日本経済も成長を続ける」というのが「経済学の常識」だとされてきたからだ。
だが、ご存じのように現実はそうなっていない。
日本と比べて、中小企業がバタバタと倒産して、失業者があふれかえっている米国や欧州の国がコロナ禍でも経済成長を続けていた中で、日本だけが成長していない。
おまけに、各国政府が最低賃金を着々と引き上げている中で、日本だけは賃金がまったく上がらず、「今こそ節約の夏!」なんて根性論を唱えている。ついには、平均給与でお隣の韓国にまで抜かれてしまっている。
一方、世界を見ると、日本国内で語られていることとまったく逆のことが起きている。日本と比べ物にならないほど中小企業がバタバタと倒産している国の方が、普通に経済が成長して、着々と賃上げもしている。
冷静に考えれば当然だ。中小企業がバタバタと倒産しても、また新しく起業をする人たちが現れる。倒産で職を失った人も、次の仕事に就いて新しいスキルを身につけていく。こういう「新陳代謝」があって、国の経済は初めて活気が出てくるのだ。
また、日本では「日本経済が低迷しているのは消費税のせいだ」というのが、政治家からエコノミストまで共通の認識になっているが、世界では消費税をゼロにするとかいう話を、そんな重要視していない。
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