「ハゲはセクシー」な国もあるのに、なぜ日本人は恥ずかしがるのか 背景に「加藤茶」と「アデランス」:スピン経済の歩き方(4/6 ページ)
脱毛ビジネスが好調である。男性だけでなく、子どもも脱毛エステに通っているとかで。空前のブームがうかがえるわけだが、欧米で注目されている「ハゲ」も、日本で定着するのだろうか。
「ハゲの道化師」が登場
この呼びかけに日本の名だたるハゲが反応した。作家の江戸川乱歩が世話人になって、参議院議員の山本有三、作家の武者小路実篤などが「光頭クラブ」を結成して、ハゲを誇りに活動をして、孤児の救済事業など社会支援もしていこうと動き出す。
だが、そんな「ハゲが輝く時代」はほどなく終焉(しゅうえん)を迎える。60年代になるとハゲは「深刻な悩み」「バカにしてはいけない気の毒な人たち」というイメージが急速に広まって、以下のように「病気」として扱われるようになっていく。
「ハゲ患者の心理調査結果 おずおずと神経質 心理的な治療も大切」(読売新聞 1964年6月2日)
なぜイメージがガラリと変わってしまったのか。ひとつはこの時代、日本中の子どもたちが指を刺して腹を抱えて笑った「ハゲの道化師」が登場したことが大きい。
ひとりはハゲヅラをかぶった「デン助」というキャラクターで、50年代後半に一世風靡(ふうび)をした浅草芸人の大宮敏充さん。そしてもうひとりが、やはりハゲヅラを被ったおとぼけキャラによって、60年代後半に国民的な人気者となった「カトちゃん」こと、ザ・ドリフターズの加藤茶さんだ。
50代くらいの方ならば覚えているだろうが当時、加藤茶さんの人気はすさまじく、多くの子どもが真似をした。この50年代から70年代にかけての「ハゲコント師ブーム」によって、「ハゲ=みんなに笑われる道化師」というイメージが日本社会に広まっていくのだ。
と書くと、何やら大宮さんや加藤さんというコメディアンが悪いと言っているように感じられるかもしれないが、そんなつもりは毛頭ない。戦前からマンガなどで頭のハゲたカミナリ親父をイジるストーリーは存在している。つまり、ハゲを小バカにするという笑いの方向性は日本社会に以前からあって、それを映画やテレビのコントでハゲキャラを広く定着させたのが、「大宮さんや加藤さんだった」だけの話である。
このような「ハゲのパブリックイメージ」が固まっていく一方で、実はこの時代からハゲに「医療」が急接近していく。病気や事故によって頭髪を失った人たちの「義髪」というカツラを提供している老舗メーカー「東京義髪整形」が、「髪の悩み」を持つという共通点から男性のハゲも「患者」として扱うようになって、カツラによる心のケアの重要性を訴えていくのである。先ほどの調査もそのひとつだ。
つまり、日本の60年代というのは、テレビでは「ハゲ=道化師」というイメージが広まる一方で、医療や患者の心のケアという世界では、「ハゲ=前向きに生きるためには隠すべき」という概念も急速に広まった時期なのだ。
そして、この「時代の変化」を敏感に察知して、見事なマーケティングで市場を確立したのが、アデランスだ。
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