「サイゼリヤで満足=貧しい」のか 残念ながら“事実”であるワケ:スピン経済の歩き方(4/6 ページ)
サイゼリヤ論争が盛り上がっている。『サイゼリヤで満足することは「貧しい」ことなのか?』といったテーマが語られているが、消費者はどのように受け止めているのだろうか。筆者の窪田氏は、一票を投じていて……。
美しいストーリーの裏に「低賃金労働者」
一体どういうことか説明しよう。例えば、筆者はサイゼリヤに行くと、マルゲリータピザとペンネアラビアータをよく注文する。2つ合わせて800円。この価格であの味というのは、消費者的には最高である。というわけで、戦争が起きようが、円安が進行しようが、未来永劫(えいごう)この2つで800円という価格を守っていただきたいと切に願っている。
しかし、それを実現するのは容易なことではない。世界的に物価が上昇しているので、それをチャラにするほど原料調達をさらに安くしないといけない。「自社農園だ」「独自ルートだ」といったところで、石油も上がっているので輸送費も高くなる。サプライチェーンの効率化などの努力には限界があるのだ。
そんな中で、これまでと変わらぬ品質、変わらぬ量をマルゲリータピザとペンネアラビアータを「800円」で提供し続けようと思ったら、さらなるコスト圧縮が必要だ。スケールメリットを出すには拡大路線を続けなければいけないので、店舗数は減らせない。となるとあと残っているのは、一番削りやすいところしかない。そう、人件費だ。
現状もそうだが、高校生などできる限り最低賃金で働かせられる労働者をフル活用して、「高品質・低価格」を死守していくのである。
この「企業努力」こそが、30年以上にわたって「安いニッポン」を進行させてきた「犯人」だ。日本全国で1000店舗以上も展開していて、地域内の個人経営の飲食店にも大きな影響を与えている巨大チェーンがアルバイトの時給を最低賃金スレスレに抑えれば当然、それは地域内の賃金にも影響を及ぼしていく。
例えば、サイゼリヤに客を取られるライバルの外食チェーンや、地場のチェーンもサイゼリヤに負けじと「高品質・低価格」を打ち出せば、サイゼリヤ以上に人件費を圧縮していくしかない。サイゼリヤのように自社農園もなければ独自の食材調達ルートもないのだから当然だろう。
われわれ消費者は「サイゼリヤは企業努力で高品質・低価格を実現していて庶民の味方だな」と無邪気に喜んでいるが、実はその美しいストーリーの裏には「低賃金労働者」が隠れている。つまり、われわれがたった400円で、ミシュランシェフもうなるようなおいしいパスタを食べられるのは、年収200万円にも満たないワーキングプアを安定的に生み出していく「低賃金ビジネスモデル」のおかげなのだ。
関連記事
- ちょっと前までブームだったのに、なぜ「高級食パン」への風当たりは強いのか
どうやら「高級食パン」のブームが終わるようだ。最近、さまざまなメディアがこのように報じているわけだが、なぜ「高級食パン」への風当たりは強いのか。その背景には、2つの理由があって……。 - キユーピーの「ゆでたまご」が、なぜ“倍々ゲーム”のように売れているのか
キユーピーが販売している「そのままパクっと食べられる ゆでたまご」が売れている。食べことも、見たことも、聞いたこともない人が多いかもしれないが、データを見る限り、消費者から人気を集めているのだ。なぜ売れているのかというと……。 - 「さようなら、監獄レストラン」 なぜ23年も運営できたのか
「監獄レストラン ザ・ロックアップ」が7月31日に閉店した。「不気味さ」や「怖さ」を売りにしたエンタメ系のレストランは、なぜ閉店したのだろうか。運営元を取材したところ……。 - “絶滅危惧種”と呼ばれた「ドムドムバーガー」は、なぜ蘇ったのか
日本最古のハンバーガーチェーン「ドムドムバーガー」が不死鳥のように蘇っている。閉店に次ぐ閉店で、「絶滅危惧種」呼ばれていたのに、なぜ店舗数を増やすことができているのか。 - “売れない魚”の寿司が、なぜ20年も売れ続けているのか
魚のサイズが小さかったり、見た目が悪かったり――。さまざまな理由で市場に出荷されない「未利用魚」を積極的に仕入れ、宅配寿司のネタにしているところがある。しかも、20年も売れ続けていて……。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.