部品供給の構造問題と国内回帰という解決策 自動車各社決算の読み解き方:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)
自動車メーカー各社の第1四半期決算が出揃った。ただし各社の決算を見ても、特に波乱はない。影響を与えたのは「部品供給不足」「原材料価格高騰」「円安」の3つで、それが分かれば概ね予想は付いてしまう。
中国と米国 エリアごとの見通し
エリア別の話をすれば、中国に強いメーカーには逆風だ。言うまでもなく上海のロックダウンの影響で、販売が極度の不振に陥ったからだ。ただし、4〜5月でその影響は収まっており、すでに以前の水準に戻っているメーカーがほとんどだ。そうした状況を踏まえて、各社は年間販売台数を期首計画のまま、営業利益も据え置いている。まあ全体としてみれば、諸々の変化を差し引けばプラマイゼロと考えていい。
第2四半期以降の不安要素としては、かなり濃厚になりつつある中国と米国の景気後退気配である。すでにそれを織り込んで(台湾問題の影響も含む)円安が底を打った可能性があることも大きい。長らく続いた荒れ相場に強い円に戻る可能性が高まりつつある。
そのあたりは各社の長期計画にも影響を与えるので、注意深く見守って行く必要がある。常識的な見通しとしては、中国の景気後退は日本のバブル崩壊と構造が極めて似ている。過剰投資および資産価値縮小の調整が終わるまで先の展望が見えない。簿価変動の大きさからいって、一度崩れたら5年やそこらで回復するとは思えない。少なくとも10年以上は続く長い不景気のトンネルになりそうである。
一方で米国はどうかといえば、短期的に大きく崩れる可能性はあるが、構造的問題をはらんでいるわけではなく、むしろ常識的な景気循環のサイクルだと見られる。中国発の大不況でよっぽど対応を誤らない限り、2年程度で戻る可能性が高い。
という仮定をおいての話だが、推測通りに事が進むと、中国投資を進めてきたメーカーは厳しいことになるかもしれない。具体的にいえばホンダと日産である。逆に中国にも米国にも軸足のないスズキは、どちらの影響もほとんど受けない。ただし、日本のメーカーとしては珍しく欧州マーケットに強いので、どうしてもウクライナ情勢や、欧州のエネルギー政策の影響は強めに受ける。それでも真の軸足はインドであり、インドを足がかりに攻めに転じているアフリカマーケットで新たな成功を収めつつあるので、インドとアフリカの動向いかんによっては、欧州の影響は十分キャンセルできてしまうだろう。
米国経済の影響を強く受ける会社は多い。トヨタ、ホンダ、日産、マツダ、スバルは影響甚大である。ただ先に触れたように、米国は周期的に不況が来るので、長期的には各社織り込み済みだし、リーマンショックを筆頭にその対応を経験済み。それほどの心配はしていない。
関連記事
- トヨタのいう「原価低減」とは「値切る話」ではない 部品不足と価格高騰
自動車メーカー各社は相次ぐ工場の稼働停止に苦しんでいる。まず部品がない。そして原材料からエネルギー、水に至るまであらゆるものが高騰している。相当に苦しい状況である。そんな中、トヨタが言う「原価低減」とはどういうことを意味しているのだろうか? - 理由は半導体だけではない 自動車メーカー軒並み減産と大恐慌のリスク
7月から9月にかけて、各社とも工場の操業を停止せざるを得ないほどの減産を強いられた。この問題、本当に理由が中々報道されていないように思う。メディアの多くでは「半導体」が減産の原因だとされてきた。実際のところ、半導体そのものも理由の一部ではあるのだが、あくまでも一部でしかない。生産に大ブレーキをかけたのはもっとごく普通の部品である。 - グローバル化からブロック化へ 世界のものづくりの大きな転換点
国際分業が成立する仕組みは、世界が平和であってこそ。そこに最初に激震を与えたのは、新型コロナの蔓延で、人流と物流が止まって、国際分業に大ブレーキが掛かったことだ。そこに加えて、ウクライナ危機である。 - レアメタル戦争の背景 EVの行く手に待ち受ける試練(中編)
コバルトの問題が難問過ぎるので、今注目を集めているのが、従来のハイコバルト系リチウムイオン電池に代わる方式だ。最も早く話題になったのがリン酸鉄電池である。ついでナトリウム電池、そしてニッケル水素のバイポーラ型電池。長らく次期エースと目されている全固体電池もある。 - 【自動車メーカー7社決算】ものづくりのターニングポイントがやってきた
内自動車メーカーの第3四半期決算が出揃った。しかし、今年の第3四半期決算は少し趣が違う。どう違うかを解説する前に、まず第2四半期までの状況を振り返っておこう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.