鉄道貨物の諸問題解決が急務、運送業界「2024年問題」に備えよ:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(8/10 ページ)
「日本の列車はダイヤに正確」は、旅客列車に限った話だ。貨物列車は、全国ネットワークで長距離を走るから、障害が起きれば遅延は全国に波及。JR貨物の公式サイトには、貨物列車の運休や遅延の関する「お詫び」が毎日のように掲載されている。
住宅設備メーカー最大手のLIXILはユニットバス事業について国内4カ所の工場で部品製造と組み立てを実施しており、サプライチェーンの輸送は8〜9割をトラック輸送で形成している。21年から輸送モードのCO2削減のため鉄道輸送を始め、22年6月以降は別の拠点間の輸送を開始。将来的に鉄道のシフトを強めたい。
鉄道貨物の要望として、CO2削減量に応じた助成制度の創設、大型コンテナ、ダイヤの見直し、ロールパレットによる小口貨物対応を挙げた。ほかの荷主と同様、災害対応と運行輸送状況のリアルタイム提供を求めた。
大和ハウス工業は、グループ企業やJR貨物と協働し、日本全国の持続可能な物流網の構築を目指している。その第1弾がDPL札幌レールゲート(複合型貨物駅)だ。貨物駅などと連接する物流施設の開発を軸とし、鉄道輸送を使いやすくする物流の仕組みの企画および事業化を検討中。こちらは要望というより、鉄道貨物の向上の取り組みの報告だ。
異色の発言者は防衛省だ。有事の際はあらゆる輸送モードを速やかに実施したい。そのために鉄道輸送は「北海道〜九州におけるコンテナによる多種多量の装備品・補給品などの輸送が可能であり、安全性やダイヤの安定性の観点からも輸送力としての期待は大きい」と述べた。直近では21年9月から10月にかけて、陸上自衛隊が貨物列車の輸送演習を実施しているという。
しかし、ここまでの他社のヒアリングで現状の鉄道貨物輸送に解決すべき課題が見つかった。はたして、自衛隊が有事の輸送を円滑に実施できるだろうか。
これだけの不満と要望、そして期待が寄せられたところで、報道機関は「貨物新幹線」しか取り上げない。これで日本の鉄道貨物の現状は伝わらない。貨物新幹線については長くなるので触れない。というより、検討会では詳しく紹介できるほどの提案資料がなかった。
貨物新幹線の実現には車両開発、ターミナル設置など多額な費用が必要だ。そのためには現在の貨物鉄道で実績を積む必要がある。現在の鉄道貨物の課題を解決し、それでも限界があり、新幹線で展望が開けると示さなければ、貨物新幹線の投資に国民の理解は得られないだろう。
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