鉄道貨物の諸問題解決が急務、運送業界「2024年問題」に備えよ:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(9/10 ページ)
「日本の列車はダイヤに正確」は、旅客列車に限った話だ。貨物列車は、全国ネットワークで長距離を走るから、障害が起きれば遅延は全国に波及。JR貨物の公式サイトには、貨物列車の運休や遅延の関する「お詫び」が毎日のように掲載されている。
鉄道貨物で「2024年問題」と日本の物流を救おう
課題山積だけど、鉄道貨物の期待は大きい。なぜなら、日本の貨物輸送のシェア9割を誇るトラック輸送は破綻の危機にある。ドライバーの高齢化と若手の人材不足が進み、10年後から高齢ドライバー定年を迎えると、ドライバー総数が激減する。また、24年以降、ドライバーの年間時間外労働時間の上限が960時間に制限される。これは働き方改革のひとつで、慢性化する長時間労働を解消し、若手ドライバー獲得につなげたい。
私は若手ドライバー不足の要因は07年の中型自動車免許創設にあると思っている。それまでは普通免許で4トントラック(積荷1トン、総重量5トン)まで運転できた。4トン車はかなり大きく、ここで実績を積んで大型免許を取るコースだった。
しかし07年の免許制度改正で、4トントラックに乗るためには中型免許が必要になった。普通免許では運送業に就職できなくなった。大型免許取得コースのステップで躓(つまづ)いてしまう。交通安全、事故防止のひとつだといえば文句はいえない。
トラック輸送は24年に破綻する。トラック業界も連接車両の導入などで解決策を探っているけれども、実証実験で大型免許とけん引免許それぞれ5年以上の経験が必要で、免許要件に合う人材確保も課題だ。そうなると、いよいよ鉄道貨物の出番となる。長距離輸送をトラックから鉄道へシフトし、長距離トラックのドライバーを中距離以下のルートに振り分けたい。そのためにも鉄道貨物輸送は大規模な改善が必要になる。しかしもう放置できない段階だ。
国が日本の物流をデザインし、それぞれの輸送モードを国の責任できちんと整備すべきだ。そのためにも、鉄道貨物輸送について国民の理解を深めていく必要がある。貨物新幹線など絵空事を報じている場合ではない。
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