ワーケーション2.0に挑戦 地域の課題と魅力が混在するカオスに振り回された:「観光のついで」はもう古い(4/4 ページ)
8月某日、福岡の山奥の古民家にワーケーションに行ってみた。地域住民との交流を狙っていたのだが、筆者を待ち受けていたものは地域の課題と魅力が混在したカオスな体験だった……。
ワーケーション2.0は根付くのか
観光庁が発表した調査によると、企業が導入しているワーケーションの形態として、最も多かったのは「福利厚生型」だった。有給休暇を利用し、旅行中に一部の時間を利用してテレワークを実施するもので”従来のワーケーション”に該当する。福利厚生型ワーケーションの人気は根強いものの、21年度には46.9%と20年度(66.7%)と比較して減少した。大きく数字を伸ばしたのは、”ワーケーション2.0”に該当する「地域課題解決型」(40.6%)だった。地域関係者との交流を通じて地域課題の解決策を共に考えるというもので、20年度(22.2%)から大幅に増加した。
一方、ワーケーションの導入率は5.3%(20年度は3.3%)と、一般的な働き方として浸透しているとはまだまだ言い難い。このことから、現在はワーケーションを実践している人の中でその定義がアップデートされ続けている状態と推測できる。
ワーケーション2.0の動きを後押しするサービスも出ている。筆者が今回利用したサービスはLIFULLが運営する、地方型シェアサテライトオフィスと宿泊施設を持つ共同運営型コミュニティ「LivingAnywhere Commons(以下、LAC)」だ。自宅やオフィスなど場所に縛られないライフスタイルの実践を目的としたコミュニティで、コミュニティメンバーになると、LACが保有する宿泊拠点を自由に利用することができる。
現在の拠点数は、北海道から沖縄まで41拠点(22年8月取材時)。全拠点にコミュニティマネージャーが在籍しているのが最大の特徴だ。観光客としてではなく、近隣住民やたまたま同じ拠点に滞在している人との交流が生まれるようにイベントなどを開催している。
ワーケーション2.0が受け入れられてきているのか、LIFULLの地方創生推進部 LivingAnywhere Commonsグループ 事業推進・CXチームリーダー内田亮介氏は「21年3月と比較して22年3月の会員数は約4倍にまで増加している」と話す。19年7月のサービス開始から22年7月までの累計宿泊日数は2万7000泊以上に上る。
ワーケーションは「ワーク(仕事)」と「バケーション(休暇)」を合体させた造語だ。「仕事と休暇の区別を付けるのが難しい」という労働時間管理の観点や「出社しないと仕事ができない職種への不公平感」「情報漏えい」などへの懸念から導入に消極的な企業も少なくない。その一方で、非日常空間で働くことや地域との関わりを持つことで新しいビジネスの芽に出合うこともあるだろう。実際、筆者はワーケーションを通して新しい企画を複数思いついた。実際に編集長に承認されたため、実行に向けて準備を進めている。
そうは言いつつ、現在のワーケーションは仕事や生活の融通が効きやすい、一部の人にのみ適した働き方になってしまっているのも事実だ。今後は、誰もがワーケーションを選択肢として持てるよう、ワーケーションと企業どちらにも変革が求められるだろう。
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