トヨタとフォルクスワーゲンのブランド戦略 アウディにあって、レクサスにないもの:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/5 ページ)
フォルクスワーゲンは、いわゆるブランドビジネスの成功者とみなされている。では、フォルクスワーゲングループとトヨタのブランド戦略の差は何なのか? 特に上位ブランドであるフォルクスワーゲンのアウディにあって、トヨタのレクサスに無いものは、何なのだろうか。
中核となるフォルクスワーゲンは、元々ナチスドイツが提唱して国民車構想で誕生したKdF-Wagen:Kraft durch Freude(歓喜力号)という国威高揚のためのクルマを生産するための工場としてスタートしている。
設計はフェルディナント・ポルシェの手になるもので、恐らく世界でも希な、あらかじめ別組織で設計されたクルマを、生産するためだけに設立された自動車メーカーである。厳密にいえばノックダウン生産も同様だが、KdFがユニークなのは、フォルクスワーゲンがマザー工場であり、にもかかわらず生産専業であったという点である。逆にいえば、設立時のフォルクスワーゲンには設計者がいなかったということでもある。
そして一番ややこしいアウディである。現在アウディのエンブレムとして知られる4リングスという4つの輪が横並びで重なり合う意匠は、元々はアウトウニオンのエンブレムであり、4つの輪はそれぞれ、アウディ、DKW、ホルヒ、ヴァンダラーが32年に合併して成立した会社である。4社の中で、もっともブランドイメージが高かったのは、12気筒モデルを始めとする高級車を生産していたホルヒだ。年代を聞いてピンときた方もいるかもしれないが、29年の世界恐慌への対策として4つの会社が身を寄せたものだ。
やがて、ナチス政権が誕生すると、ヒトラーは国威発揚のために、現在のF1の前身であるグランプリを利用することを画策する。ナチスからの巨額の支援金を得たアウトウニオンとダイムラーベンツは、それまでイタリアとフランスのメイクスに寡占されていたグランプリで、ドイツの工業力をアピールすることを求められた。
両社は、その重責を果たし、ダイムラーは直列8気筒のW25で、アウトウニオンはV型16気筒のPワーゲンでグランプリを交互に席巻した。
だいぶ後になって、NSUとの合併によってアウディNSUアウトウニオンと車名が変わるが、基本的にフォルクスワーゲングループのアイコンとなるのはホルヒの12気筒高級車と、アウトウニオンのグランプリカーとなっている。付け加えるとすれば、ラリーシーンでの、アウディクワトロの活躍ということになるだろう。
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