人はなぜエンジンに魅せられる? エンジン音をスピーカーで流す例も:高根英幸 「クルマのミライ」(2/4 ページ)
レースゲームやアニメでクルマ好きになった若年層も、エンジンの咆哮には胸を踊らせる。モニター越しに見る3DCGでも、エンジンは人を昂(たかぶ)らせる力がある。その魅力は、1つや2つではなく、非常に奥深いものだ。
電動車両の課題は走りの楽しさをどう伝えるか、だ
EVやハイブリッド車は、エネルギー効率の高いクルマであるが、その一方で運転の楽しさ、移動中の楽しみ方については課題がある。移動中のエンタメを楽しむ空間としての利用を提案する企業も少なくない。しかし正直言って、それはスマホやタブレットで十分ではないだろうか。
将来的にはウインドウの内側がディスプレイになって、移動中に映画などのコンテンツが楽しめるというアイデアもある。しかし、それはタブレットを持ち込んで見られる現在と比べて、そんなに魅力的だろうか? 映画は映画館で見るからイベント感や臨場感があるのであって、何でも手軽に楽しめるようになれば良いというものではない気もする。
クルマの電動化を進める一方で、自動車メーカーはクルマの魅力をどう盛り立て、消費者にアピールできるか模索を始めたようだ。
テスラのような新興のEVメーカーは、新しさをアピールすることに注力すればいいのかもしれないが、既存のユーザーの乗り換え需要を確保するためには、これまでのクルマが持っていた魅力と新しい魅力を兼ね備える必要があるのだろう。
既存のクルマの魅力とは、本質的にはエンジンや変速機が奏でるメカニカルノイズとエキゾーストノート(排気音)が作り上げるサウンドと振動が、ドライバーの気分を高揚させて日常のストレスをいくらかでも解消できるような、非日常感に近い感覚を生み出すものではないだろうか。
もちろんEVでも太いトルクと駆動系のシンプルさから、加速性能の鋭さや応答性の良さなどで非日常感を演出することは可能だ。しかしエンジンがもつ鼓動のような振動やトルクの盛り上がり、排気音といったワイルドな魅力は持ち合わせてはいない。
エネルギー効率では圧倒的にモーターの方が上だが、エンジンはその無駄とも思える部分にこそ、走りの魅力が存在するのである。
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