人はなぜエンジンに魅せられる? エンジン音をスピーカーで流す例も:高根英幸 「クルマのミライ」(4/4 ページ)
レースゲームやアニメでクルマ好きになった若年層も、エンジンの咆哮には胸を踊らせる。モニター越しに見る3DCGでも、エンジンは人を昂(たかぶ)らせる力がある。その魅力は、1つや2つではなく、非常に奥深いものだ。
ホンダはこのシビックe:HEVに採用したパワーユニットをスポーツe:HEVと名付けている。単にモーターの出力を高めるだけでなく、運転を楽しめることが大事と、さまざまな仕掛けを仕込んできたのだ。
エンジン一定回転で加速するCVTにも違和感を訴えていた、欧州市場に向けて開発したものらしい。ただ北米市場でも日本市場でも「燃費は重要だが運転がつまらないクルマには乗りたくない」という層には、十分に訴求力はありそうだ。
電動車両の開発に注力するためにF1GPからの撤退を決めたホンダという企業が、タイプRというMTのみのモデルをリリースするのは矛盾を感じなくもないが、理想と現実のギャップと思えば十分に許せる範囲であり、ホンダには今後も魅力的なエンジン車を作り出してほしいと思う。
クルマは単なる移動手段ではない。運転を、移動をどう楽しむか。移動手段としてクルマを選択するドライバーは、リットルあたり1キロでも燃費が良いクルマを選ぶ層ばかりではない。意のままに操れるクルマ、日常のストレスからクルマによって解放されるユーザーは数えきれない。
レースゲームやアニメでクルマ好きになった若年層も、エンジンの咆哮には胸を踊らせる。モニター越しに見る3DCGでも、エンジンは人を昂(たかぶ)らせる力がある。その魅力は、1つや2つではなく、非常に奥深いものだ。
EVになっても効率ばかりを追求するのではつまらないし、クルマの魅力を減らしていく。単なる移動手段に成り下がるのであれば、クルマはモビリティの革新の波に飲み込まれていくことになるだろう。クルマが特別なモノであり続けるかは、今が正念場といえるのかもしれない。自動車メーカーの試行錯誤は、今後も続いていくことになりそうだ。
筆者プロフィール:高根英幸
芝浦工業大学機械工学部卒。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、テスターとして公道やサーキットでの試乗、レース参戦を経験。現在は日経Automotive、モーターファンイラストレーテッド、クラシックミニマガジンなど自動車雑誌のほか、Web媒体ではベストカーWeb、日経X TECH、ITmediaビジネスオンライン、ビジネス+IT、MONOist、Responseなどに寄稿中。近著に「ロードバイクの素材と構造の進化(グランプリ出版刊)、「エコカー技術の最前線」(SBクリエイティブ社刊)、「メカニズム基礎講座パワートレーン編」(日経BP社刊)などがある。企業向けやシニア向けのドライバー研修事業を行う「ショーファーデプト」でチーフインストラクターも務める。
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