「課長になんてなりたくない!」 喜べないポジションと“やりたい仕事”の幻:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(1/4 ページ)
「課長になりたくない」「管理職になってから、ぐっすり眠れない」──中間管理職の報われなさから、出世を拒む人が増えている。ビジネスパーソンは、そうした「喜べないポジション」とどのように向き合うべきなのだろうか?
前回の記事で、「課長にすらなれない」とキャリアを悲嘆する男性社員のケースを取り上げました(関連記事)。
一方で、「課長になんてならなければよかった」という意見や、「そもそも管理職になりたくない」とコメントする方も少なくありませんでした。
私自身、中間管理職のしんどいさといったら、世界一? と思うこともしばしば。
「管理職になってから、ぐっすりと眠れたことは一度もありません」
「管理職は、日々決断の連続です。しんどいですよ」
「前例を変えたいと思っていたのに、それができない自分に自信喪失するんです」
「どうやっても育ってくれない部下がいまして。もう、本当にどうしていいのか分かりません」
──など。上と下の板挟みにある「中間管理職」の苦悩を、インタビューで散々聞かされてきたからです。
「命の危機」にさらされる管理職
日本の“管理職”という役職が心身を蝕むポジションであることは、1970年代後半頃から社会的問題になっていました。
当時の日本経済は、戦後最大の波乱に見舞われた71年のニクソンショック、73年の第一次オイルショックからの回復期で、78年には円相場が急騰。高まる需要に対応するために、日本企業は合理化を徹底し、少ない人数で長時間働かせ、生産性を向上しました。
そのツケを払わされたのが中小企業の管理職層です。
働き盛りの会社員たちの間で心筋梗塞が急増。「過労死」という新しい言葉が生まれる、きっかけになりました。
本来、新しい言葉は「解決すべき問題」があるからこそ生まれるもの。ところが、過労死問題は解決されることもなく、その後も置き去りにされ続けました。「そいつが弱かっただけ」「しんどかったら休めばよかったじゃないか」などと、個人の問題にされてしまったのです。
それは管理職が「命の危機」にさらされ続けることを意味しています。
80年から2005年までの26年の間に死亡した30〜59歳男性の、死因および死亡前に就いていた職業のデータを縦断的に分析すると、ストレス性の疾患である心筋梗塞や脳卒中で亡くなる人が、管理職および専門職で増加。管理職以外では漸減していたのに、管理職では70%も増加。自殺率に至っては、271%と激増していました。
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