「課長になんてなりたくない!」 喜べないポジションと“やりたい仕事”の幻:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(2/4 ページ)
「課長になりたくない」「管理職になってから、ぐっすり眠れない」──中間管理職の報われなさから、出世を拒む人が増えている。ビジネスパーソンは、そうした「喜べないポジション」とどのように向き合うべきなのだろうか?
「管理職になりたくない」はずだった
政府が働き方改革の狼煙(のろし)をあげてからは部下の代わりに身代わり残業をし、新型コロナウイルス感染拡大により、会社の生き残りに必死な上(=上司)からのプレッシャーは最大級に高まりました。
そんな“病む管理職”を目にすれば、「管理職になりたくない」と誰だって思います。
「若い人たちが管理職になりたがらない」「女性たちが管理職になりたがらない」だけではなく、“ノー”というカードを持たされていない40代以上の男性会社員の中にも、「管理職への昇進、正直なところうれしくない」と考える人は相当数存在します。
しかし、私が知る限り「降格を申し出た」という管理職は1人もいませんでした。
これまで私がインタビューした900人超の働く人たちの中にも、キャリア相談に来る人たちの中にも、1人もいません。「管理職になりたくない!」と豪語していた人でも、課長という肩書きがついた名刺をうれしそうに出すのです。
「やりたい仕事」の幻想と適応力
この数年、大学のキャリア教育の影響もあって、「自分にあった仕事」を模索する傾向が強まりました。「自分にあってる、あってない」「やりたい、やりたくない」「意味がない、意味がある」「好き、嫌い」といった二分法でキャリアを選択し、うまくいかないのは自分にあっていないから、やりたくない仕事だから、好きな仕事じゃないからと、言い訳するのです。
むろん、好きな仕事をできた方がいいし、やりたい仕事をやった方がいいかもしれません。「私」たちは労働力を提供しているだけであり、人格を提供しているわけじゃないのですから、心身を疲弊させてまで働く必要は全くありません。
「自分自身の能力と才能を開発し、発見する」には、「モチベーションが上がる仕事に挑むのがベスト」という言説も正論でしょう。
でも、人には「自分でも気が付いていない能力」があるのも、また事実。現実世界ではテレビドラマよりもドラマチックな出来事が起こることがあるように、正論では語り尽くせない不確定要素が存在します。
所属する組織、そこで出会う上司や先輩、実際に働く中で起こったちょっとした出来事……。そんな無数の環境要因との相互作用で、自分の考え方が変わったり、想定外のポジティブな結果につながることがある。
「こんな仕事は自分にできない」と思ったことを、いやいやながらでもやっているうちに、それまで秘められていた自分の能力が開花することもあれば、「あれ、これってちょっと違うかも」と思う環境に身を置いているうちに、その場所が心地よくなったり。「いつもと違う自分」を演じてみたり、「自分の好みとは違う」ことをやってみると、予想外のうれしい発見をしたり。
人間はそうやって「適応する力」を持ち合わせている。そして、そうこうしているうちに、本当に自分がやってみたいこと、本当に自分が伸ばしてみたい力が具現化されます。
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