躍進する「ワケあって安い」スーパーとは 値上げの秋が追い風に:小売・流通アナリストの視点(2/4 ページ)
2022年に入ってから、急速に物価が上昇し続けている。消費者の財布のひもが締まり、巣ごもり需要も消失する中でも、業績が好調な小売りチェーンが複数ある。それらの共通点と、実態とは──?
国内25拠点で激安PBを製造する「業務スーパー」
価格訴求型のPBをウリにする企業といえば、筆頭に挙げられるのが、神戸物産の展開する「業務スーパー」だろう。業務スーパーはフランチャイズ方式(FC)の店舗網でできていて、基本、1000店舗弱の店舗のうち、直営店は3店舗しかない。
このチェーンを支えるFC加盟店は、もともとはカー用品チェーン、食品スーパー、酒ディスカウンター、ホームセンター、家電量販店などのチェーン小売業であったが、祖業が伸び悩んだことで、業務スーパーに転換したり、業務スーパーと組み合わせた店舗を産み出すことで、再成長に向かっているしぶとい小売業が集まっている。
これら加盟店に向けて神戸物産は、PB商品を開発、製造、供給することに特化することで、コストパフォーマンスの高い低価格PBを提供することに専念する、といった役割分担ができている。製造拠点を自社グループ内に保有、今や国内25カ所にもなっている。
このパートナーシップがうまく機能しているため、コスパの高い商品が次々に開発され、加盟店がどんどん出店して売るので、さらにいいものが開発できる、という好循環が実現している。業績もコロナ禍を追い風に順調に拡大、巣ごもり需要の反動を飲み込んで、既存店の売り上げは確実に伸び続けている。値上げが続けば続くほど、業務スーパーは拡大していきそうだ(図表3)。
西日本の「ラ・ムー」 展開する大黒天物産は“食品製造小売業”
首都圏には店舗がないため知られていないが、西日本エリアでは有名な激安PBチェーン「大黒天物産」もはずせない存在だ。主に「ラ・ムー」という店名で、西は九州、東は新潟、長野までに194店舗を展開、売り上げは2241億円に達する。この会社もD-PRICEという低価格PBを軸として品目を絞り込み、徹底的な絶対額での安さを武器に成長してきた。
この会社は「食品製造小売業」と名乗っている。子会社には農業生産法人、牧場、乳製品製造、麺類製造、魚の養殖などの一次産業を抱える。さらに自社製造拠点で日配品、菓子、パン、総菜類、なども生産しており、販売力を背景として工場稼働率を極大化しつつ、流通コストを省いて低価格を実現している。
値上げが進んでいる2022年3月〜4月に、品目を「値下げ」して以降、巣ごもり需要の消失をものともせず、全店売上増減率はプラスで推移している。大黒天物産が値上げラッシュの時代にさらに成長するのは間違いなさそうだ(図表4、5)。
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