躍進する「ワケあって安い」スーパーとは 値上げの秋が追い風に:小売・流通アナリストの視点(3/4 ページ)
2022年に入ってから、急速に物価が上昇し続けている。消費者の財布のひもが締まり、巣ごもり需要も消失する中でも、業績が好調な小売りチェーンが複数ある。それらの共通点と、実態とは──?
DX・物流投資で、安さを支える「トライアル」
最後に、トライアルについても触れておきたい。この会社はPBを前面に押し出しているというタイプではないが、ディスカウントタイプの企業としては国内有数の企業であり、価格訴求型のストアとしてはずせない存在だろう。
スーパーセンター業態を中心としたディスカウント小売であり、生活必需品を低価格で提供、地方を中心に全国展開している。22年6月期では小売売り上げ5975億円にまで成長した(図表6)。最近では、生鮮、総菜の強化も奏功し、提供品質の改善についても評価されつつある。
22年7月より公開されている既存店の売上動向は105%と好調を維持している。加えて、この会社のリテールDXへのこだわりは半端なものではなく、「スマートショッピングカート」「リテールAIカメラ」などを装備した「スマートストア」などの開発にかなり前から取り組んでおり、さまざまな業態でDX導入実験を継続してきたことで知られている。
それ以上に驚くべきは、トライアルがイオン九州に呼びかけ、九州の大手小売業で構成する九州物流研究会が立ち上がったというニュースである。
2社に加えて、サンリブ、ハローデイ、西鉄ストア、エレナ、トキハインダストリー、西友(福岡地域)など地域の有力小売が一同に参加して、物流連携まで見据えたさまざまな検討がなされるようだ。イオン九州の柴田社長の言葉を借りれば、「店でモノを売ることについては(各社で)競争になるが、モノが店に入るまでには一緒にやれることがたくさんある」ということだ。
トライアルといえば、DXの取り組みなどの報道を目にした方は「武闘派+イケイケ!」というイメージを抱いているかもしれない。だが実際は、壮大な理想をしつこく追い求め、少しずつ実現していくという、かなり地道な企業であるようだ。
一部では酷評されていた生鮮、総菜を地道に改善し、DX化に向けて投資と実験を繰り返し、物流もハードルが高い域内連携を目指している。こうしたしつこい努力が続けられるなら、DX、物流で飛躍的に生産性を改善し、品質の高い商品を劇的な低価格で提供する、という現時点では不可能に思える夢も少しずつ実現に向かうかもしれない、と思ったのである。
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