グリーンか、破綻かーー不動産の未来は?:フィデリティ・グローバル・ビュー(3/3 ページ)
かつて不動産投資は「価格と利回り」という比較的シンプルなものでした。しかし今や、ネット・ゼロ(温室効果ガスの排出量実質ゼロ)に向けた競争の最前線に立っています。現在ある建物では、2050年までのネット・ゼロ達成は難しいでしょう。建物は変わらなければいけないし、私たちの投資アプローチも変えなければいけません。それもすぐにそうしないと資産が陳腐化し、価値を失うリスクがあるのです。
リスクの先に向かう
よりサステナブルな建物に変えていくことは、間違いなくコストがかかります。しかし、気候変動に対応した改修は資産価値を高めることにつながります。改修は今後の規制強化に対してポートフォリオを守る役割を果たすほかインフラ環境を改善し、二酸化炭素の排出量目標を達成することで移行リスクや洪水、熱波などの物理的リスクを軽減できます。
また、改修後の建物はブラウン資産と比べてはるかに強い賃貸能力を備えています。パンデミックが不動産市場を揺るがした過去2年を振り返ってみても、グリーン・ビルディングへの需要は堅調です。こうした建物はまだ供給不足(17年のBPIEのレポートによるとEUの建物のうちEPCのAランクを取得したのは全体の3%未満)で、向こう10年もその先も需要は続くでしょう。変革とそれが生み出す価値の重要性を理解するプレーヤーが早い段階で優位性を発揮することを期待しています。
野心的な目標
業界全体の変化を受け入れることは、投資家が投資リターンとネット・ゼロへの貢献を目的に、通常のリスク・リターンモデルを超えて脱炭素化の目標をポートフォリオに組み込もうと考え始めることを意味します。Thinking Ahead Instituteのレポート(注5)によると、人々は高いリターンと投資に値する世界の両方を求めています。ポートフォリオ・マネージャーは2つの目標を同時に達成する必要があり、とても難しい作業が伴うでしょう。しかし、ネット・ゼロの目標にプラスの貢献をするのであれば、それこそが投資の未来の姿だと言えます。
欧州の不動産ポートフォリオを変革することは、簡単ではありません。その規模も金融情勢に与える潜在的な影響も甚大な上、この大きなうねりを前に拠って立つフレームワークも存在しません。しかし、建物から二酸化炭素が排出され続けることによる潜在的な気候変動へのインパクトを踏まえると、投資家や業界、地域社会にとっての最大のリスクは、何もしないことなのです。
(この記事は2022年8月30日にフィデリティ・インターナショナルのサイトに掲載された英文記事を翻訳・編集したものです)
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