形骸化した人事制度、使われないツール──人事はなぜ、“空回り”してしまうのか ヒントは「経路依存症」にあり:連載「情報戦を制す人事」(3/4 ページ)
「人材可視化ツールを入れたが使われていない」「新しく導入した役割等級制度が形骸化している」といった人事担当社の声を聞くことがあります。本稿では、人事施策を有意義な結果に結び付けるための方法を「戦略人事」「経路依存性」「アラインメント」というキーワードをもとに考察します。
経路依存性からの脱却が戦略人事の鍵
次に、施策対象が狭いことがなぜ人事施策の失敗につながるのかについて、組織が持つ「経路依存性」という傾向を用いてご説明します。
よい人事施策を立案するためには、戦略人事という枠に基づいて目的を明確にし、人事施策の実施まで理屈が整理されていなければなりません。しかし、実現性という観点で最も注意すべきことは、経路依存性です。経路依存性とは、人や組織が持つ「過去の慣習に引っ張られて物事を選択しやすい」性質を指します。
例えば、従業員のキャリア自律を促進するための施策について考えてみます。この目的のためには、下記のような制度が考えられます。
- キャリア自律の重要性や、取り組み方法を伝える研修
- キャリアの選択機会となり得る、副業や公募制度
このような仕組みによって期待される最も理想的なケースは、キャリア自律度の高い従業員が増え、公募を利用してさらに活躍する社員を見て、さらに他の従業員のキャリア自律度が高まる──という正の循環ができることでしょう。
しかし、残念ながらうまくいかないケースがよく見受けられます。従来は従業員の配置のほとんどが組織の都合で決まっていた場合、優秀な人が外に出ることは元いた部署にとって大きな問題になりがちで、「各部署が優秀な人を手放せない」という事態に陥ってしまうのです。
これは、一概にその部署が悪いという問題ではありません。各部署は事業目標を達成するために動いているため、パフォーマンスの高い人材の離脱を止めることにインセンティブが働いてしまいます。
このように、人や組織にはある事象を変更させようとしても、その変更対象が人や組織自体を取り巻く環境の最適な歯車となっている場合には変化を起こしにくいというのが、経路依存性が引き起こすことです。
こうしたことから、何かを変えるために施策を実施する際は、変更対象の周辺も変化させることで、経路依存性からの脱却を試みる必要があります。
変更対象とその周辺の環境の両方の整合性をとりながら変化させていくこと、そして多方面へ配慮することを、戦略人事の文脈では「アラインメントを整える」「アラインする」などと表現します。
経路依存性から脱却するための3つのアラインメント
経路依存性から脱却するためには、どのようにアライメントを整えればよいのでしょうか。経路依存性からの脱却、そして戦略人事を実現する際のアラインメントについて考えるべきことは複数ありますが、ここでは特に重要な「人事制度面」「心情面」「業務面」の3つの観点で整理します。
(1)人事制度面におけるアラインメント
まずは人事制度面におけるアラインメントとは何かについて、具体的な事例を用いて説明します。下の図2は人事制度を考える上での各項目を、体系立てて並べたものです。
新市場への参入を見据えた中途採用を計画する場合を考えてみましょう。募集職種と必要人材を定義し、その人材用の等級制度として職務制度を整えたとします。ここで仮に「等級」のみを用意し、他制度を何も変えなかった場合、どうなるでしょうか。
人事評価方法は既存のポストと同じでよいのか、報酬はどのような基準かなど、少なくとも上の図で矢印の一つ先にある制度も併せて考える必要があります。
さらに、中途で入社した従業員のキャリアプランについても考えておくべきです。仮に急激なビジネス環境の変化で新市場への参入が頓挫し、当該社員のスキルが必要なくなった場合、どうするべきかという問題になる可能性があります。このように、人事施策を実行する際は、各人事制度のアラインメントを取る必要があります。
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