住宅ローン契約者の3人に1人が破綻する? 統計が浮き彫りにした金利上昇の大きなリスク:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(1/2 ページ)
3月に、筆者は金利上昇リスクの高まりによって現住宅ローン契約者の4人に1人が破たん予備軍となることを説明した。そして、9月の状況は当時の市況よりもさらに悪化している。
1ドル140円を超える急激な円安で、日銀の異次元緩和政策が岐路に立たされている。
9月13日には、8月の企業物価指数が前年同月比で9.0%も増加し、過去最高を更新した。日本の消費者物価指数(コアCPI)も、足元では年率2.0%の水準を超えている。いよいよ日銀も、「緩和の縮小」ないしは「利上げによる金融引き締め」へ舵取りをしていかなければならないタイミングになってきたといえる。
金融緩和を縮小する金融政策には、「市中金利を高める」という効果がある。簡単にいえば、今後借金の金利が上がることになる。そんな局面では、大規模なローンを組んでいる者ほど割を喰らうことになる。
では、企業を除いて最も大きな借金とは何だろうか。それは「住宅ローン」である。
これから「3人に1人が破綻」する?
3月に、筆者は金利上昇リスクの高まりによって現住宅ローン契約者の4人に1人が破たん予備軍となることを説明した。そして、9月の状況は当時の市況よりもさらに悪化している。
2022年3月当時における日本の長期金利は、今の水準から2割ほど低い0.186%であった。さらに、米国の利上げターゲットとされている水準も、当時は2%程度であったが、今ではその倍の4%程度への利上げも視野に入ってきている状況だ。
ここで、以前に紹介した金利上昇の到来によって破綻する可能性がある「4人に1人」はどのような根拠があったかをおさらいしたい。この「1人」に共通するのは、ある”危険な住宅ローンの組み方”をしていることだ。
それは、「頭金が最小限で、固定金利だと借りられない金額を、変動金利では借りられるためにローンを組んだ」という人だ。
固定金利は変動金利を上回るのが原則だ。そのため、借入可能額と毎月の支払額を一定とした場合、固定金利よりも変動金利の方が、総返済額に対する元本の割合が高くなる。そのため、変動金利を選んだ方がグレードの高い家に住めるようになるのだ。
固定金利では立地、間取り、日当たりなどのさまざまな条件に目を瞑って、妥協した家を買うことになる。しかし、変動金利では妥協しない理想の家でも、(今の金利の想定では)ギリギリ返済できるというという想定で満額を借りてしまう人が4人のうちの1人の破綻予備軍に該当するのである。
住宅金融支援機構によれば、金利上昇が始まる前の21年10月時点において「変動金利」を選択した顧客は67.4%と全体の3分の2以上であった。しかし、驚くべきことに、最新の調査結果では、目先で金利上昇が発生しているにもかかわらず「変動金利」を選択している契約者が73.9%まで増加しているのだ。
それだけではない。変動型の融資を選択した顧客において48.5%が、物件価格に対する融資の割合が90%を超えているのだ。
住宅ローン契約者で変動金利を選択した73.8%のうち、9割以上の融資率となっているのは44.8%である。つまり足元では、全住宅ローン契約者のうち33%、3人に1人が住宅ローンの破綻予備軍となっている。
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