住宅ローン契約者の3人に1人が破綻する? 統計が浮き彫りにした金利上昇の大きなリスク:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)
3月に、筆者は金利上昇リスクの高まりによって現住宅ローン契約者の4人に1人が破たん予備軍となることを説明した。そして、9月の状況は当時の市況よりもさらに悪化している。
少しでも高級な物件を買うために……
「変動金利で融資率が90%以上の分布が異様に突出している」という“歪み”からは、「固定金利だと借りられない金額を、変動金利では借りられるので、借りられるだけ借りる」という危険なローンの組み方が半ば当然かのように設定されている節もある。
不動産会社としては、変動金利であれば固定金利よりも高額な物件を購入してもらえるため、目先の営業成果が最大化するというメリットがある。筆者が実際に目にした例では、自社リノベ物件を「頭金10万円」で、変動金利で目いっぱい借りさせ、買わせようとする例もあった。その担当者の「みんな変動(金利)です」といった発言があったことからも、この統計には説得力があると思われた。
しかし変動金利の場合、金利上昇によって、場合によってはその時に固定金利を組んでいた場合よりも高い金利を支払わなければならないパターンに陥ることもある。「金利が上がれば固定に乗り換えればいい」という言説もSNSでは散見されるが、金利上昇局面で、変動金利から固定金利に乗り換えようとしても、今よりさらに高い金利で固定されてしまうため、あまり有効な手段とはいえない。
そもそも、変動金利でギリギリの額を借りていたとしたら、今よりさらに高い金利の固定金利に乗り換えることは難しいのではないだろうか。このような住宅ローン破綻予備軍が金利上昇局面に備えてできることは「収入を増やす」か、「物件を売却する」か、はたまた「金利が下がるように祈る」といったものしかない。
変動金利のローン商品は、金利の見直しが半年ごとであるため、足元では目立った変化こそ生じていない。しかし、足元の状況を踏まえれば、次回の見直しで変動金利で組んだローンの金利負担が増えてくる可能性は高い。
また住宅ローンには5年ルールという、「毎月の返済額が5年毎にしか見直されない」というルールがあり、金利が上がってもしばらくは支払額は一定であるため、直ちに家計の負担を圧迫するとはいえない。
しかし、金利が上がっても返済額が一定ということは、借入元本の返済ペースがスローダウンし、支払い総額を高めてしまうことにもつながる。金利上昇局面においてはやはり変動金利のデメリットを避けることはできない。
本当に金利は上がるのか
ここで気になるのが、目に見えない「金利」の上昇をどうやって事前に察知するかという点ではないだろうか。
この点について、日本国債の利回りを確認することで、すでに将来の金利上昇を市場が織り込み始めていることを確認できる。一般的に「金利」として参照される日本の長期国債(10年物)利回りを確認すると、ここ1カ月でその利回りは年率0.160%程度から0.246%まで急騰している。
日銀は「イールドカーブコントロール」という政策で、一定の価格で無限に日本国債を買い支えて、事実上の金利上限を0.25%に抑えようとしている。
しかし、最近は0.25%の水準を突破してくる回数が増えてきた。これは、日銀の吸収スピードを上回るほどの国債売りが発生していることを表しており、市場は日銀の政策変更を見込んで大量に日本国債を売っているということになる。つまり、市場と日銀の攻防戦が繰り広げられているのである。
筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCFO
1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CFOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Twitterはこちら
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