フィンテック企業からみた、新しい信用情報機関のあり方とは?(3/5 ページ)
日本の消費者信用市場が直面している現状とその課題、そして未来についてお伝えしていきたいと思います。
(3):個人に信用情報の主権がない
指定信用情報機関は、先の通り個人の信用情報を保管しているわけですが、このデータの所有権は実はデータの当人ではなく、指定信用情報機関にあります。そのため、仮に自分自身の信用情報を知りたいと思った時、手数料として1000円を指定信用情報機関へ支払う必要があるのが現状です。
また、審査の際に金融事業者が取得した信用情報を、当該事業者などから個人が教えてもらうこともできません。なぜなら、銀行などの金融事業者が指定信用情報機関から取り寄せた信用情報を個人へ開示することは第三者への開示にあたり、各信用情報機関のポリシーで禁止されているからです。逆も然りで、個人が取り寄せたデータを銀行などの組織へ共有することも推奨されていません。
このような“信用情報の所有権が本人になく、確認や管理が自由にできない”という日本の現状は、グローバルな個人情報にかかわるトレンドと完全に逆行しています。
(4):金融ライセンスを持った事業者しかデータにアクセスできない
法律の面でも課題があります。指定信用情報機関から個人の与信データの取得を依頼できるのは、指定信用情報機関へ加盟している金融事業者のみというルールがあります。加盟事業者になるには、貸金業や割賦販売法などのライセンスを保有していることが前提のため、金融事業者以外の個人の与信を本来的に利活用したい事業者は、その取得を実現できていません。
C2Cの取引や、レンタル、あるいは不動産取引など、本質的にはより多様な場面で個人に対する与信は行われていますが、これらの事業体では肝心な信用情報を活用することができない状況になっているのです。
(5):指定信用情報機関は新しく作れない
では、個人信用情報を管理・運用する組織、いわゆる信用情報機関のようなものを、現代のニーズに合わせた形で新しく作れるかというと、それもハードルが高いのです。現在、指定信用情報機関として以下2つの組織があります。JICCとCICです。
この2社は「株式会社」であり、信用情報機関として他の会社が参入することは理屈上可能なはずです。しかし、貸金業法や割賦販売法の中でそれぞれ規定されているように、内閣総理大臣からの指定を受けた「指定」信用情報機関になるためには5兆円以上の債権情報を有しているなど、条件は非常に厳しく、このような要件を満たす企業がこの後新しく生まれることは不可能に近いといっていい現状です。
では、これらの現状や課題をふまえ、今後消費者信用市場にはどのような変革が必要なのでしょうか。
関連記事
- 国内BNPLと分割払いとの違いはどこにあるのか? 【前編】
近年、後払い決済サービス(以下、「後払い」)の伸長が著しい。ECにおいて主要な決済手段として使われているのはクレジットカードだが、近年、「後払い」がユーザーにとって極めて身近な存在となりつつある。 - AI与信解禁 メルペイに聞く「何が変わるのか?」
4月に改正割賦販売法が施行され、AIやビッグデータを使った与信審査が解禁された。メルカリ子会社で決済サービスを営むメルペイは、これに対応を「AI与信」を提供する計画だ。しかし、もともとメルペイはメルカリの売買履歴データやメルペイでの決済データを用いて、与信を行っていたはず。法改正で何が変わるのだろうか? - 「アコム」に迫る勢いのLINEポケットマネー “10代とやり取り多い40代”は延滞リスクが低い?
スマートフォンを使い、個人向けに与信から貸し出しまでを行う、LINEポケットマネー(LINEクレジット運営)が好調だ。2019年8月のサービス開始から、22年3月末で申込件数が累計100万件を突破した。 - 与信機能もサービス化 行動データを融資につなげるクレジット アズ ア サービス
自前主義が普通だった金融業界で、さまざまな機能のサービス化が進んでいる。金融サービスの本丸である与信と融資機能をサービスとして提供することを目指しているCrezitは、「Credit as a Service、与信に必要な機能を外部に提供することを目指している」という。 - BNPLなぜ伸びる? 日本市場特有の理由とは
世界的に大きな潮流となっているのがBNPLだ。これは、「Buy Now Pay Later」の略で、いわゆる「後払い」サービスのことを指す。BNPLはクレジットカードに代わる決済方法として、世界各国で急速に伸びているが、それはなぜか。国内BNPL市場で40%程度のシェアを持つトップ企業ネットプロテクションズによると、実は国ごとに理由は異なるようだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.