“黒船”にも飲み込まれず 5坪の店から始まった秋田のパン屋が90億円企業に成長した軌跡:地域経済の底力(3/5 ページ)
売上高90億円前後と、全国の製パンメーカーの中でも有数の規模になった「たけや製パン」。幾多のピンチを乗り越え、ここまでの成長を遂げたのは、創業者・武藤茂太郎氏の決断力と人間性が大きい。強さの源泉を探るべく、茂太郎氏、そして同社の歴史をひもとく。
詐欺組織にだまされて……
ところが、経営状況は悪化の一途をたどる。当時はまだ配給制度で、パンの原料となる小麦粉やマーガリンなどは、許可業者でなければ多くを手に入れることができなかった。作れば売れるのは確かなのに、十分な量を作れないというジレンマを抱えながら、見る見るうちに資金繰りが厳しくなった。
開業から1年ほど経ち、ついには家賃も払えないほどに追い込まれる。もうここにはいられないと引っ越しを決心した矢先、家主が支払いを待ってくれることとなった。しばらくしてパンは自由販売となり、業績は上向きに。難を逃れることができた。
ところが、53年、再び悲劇が起きる。茂太郎氏は保全経済会という詐欺組織にだまされて、製造工場建設のために貯めてきた150万円をすべて失う。困り果てた末、わらにもすがる思いで、融資をお願いしようと銀行に足を運んだ。実はそれまで銀行とは取引どころか、行員と面識すらなかったため、文字通り、羽後銀行(現在の北都銀行)の大町支店へ飛び込んだ。何とか支店長に取り次いでもらい懇願すると、驚いたことに先方が茂太郎氏のことをよく知っていた。
支店長の千田達次郎氏は単身赴任者で、毎週末、家族が暮らす横手市に帰っていた。その際、何度も秋田駅前で働く茂太郎氏を見かけていたという。「一生懸命に頑張る人だなと感じていました。お店でよくパンも買っています。あなたなら信頼する。いくらでも貸しましょう」と、無条件で180万円を融資してくれたのだった。
この恩は忘れまいと、茂太郎氏は心に誓った。今でもたけや製パンのメイン銀行として取引は続いている。
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