“黒船”にも飲み込まれず 5坪の店から始まった秋田のパン屋が90億円企業に成長した軌跡:地域経済の底力(2/5 ページ)
売上高90億円前後と、全国の製パンメーカーの中でも有数の規模になった「たけや製パン」。幾多のピンチを乗り越え、ここまでの成長を遂げたのは、創業者・武藤茂太郎氏の決断力と人間性が大きい。強さの源泉を探るべく、茂太郎氏、そして同社の歴史をひもとく。
20を超える失敗の末に
茂太郎氏は1916年、雄和町(現在の秋田市)で生まれた。18歳の時に、志願をして軍隊に入る。45年8月、旧満州で終戦を迎え、そのまま2年間、旧ソ連によるシベリア抑留を余儀なくされた。そこから命からがら逃げてきて、故郷・秋田で人生の再スタートを切った。
しかし、いろいろな商売に手を出すも、どれも成功せず苦労の連続だった。
「布団売りに、米売り、小豆売り……。人に雇われたらその会社が倒産したりと、全てが裏目裏目に出たそうです」(真人氏)
20を超える失敗を重ねたとき、茂太郎氏はすでに35歳になっていた。
そんな折、秋田駅前にあった「田村商店」が販売するパンが飛ぶように売れていた光景を目にする。「こんなに売れるんだったら一丁やってみるか」と、茂太郎氏はパン屋を開くことに決めた。
51年、秋田駅近くの銀座通りで、5坪の小さな店「たけや」を開業した。パン屋といっても、最初は別のところからパンを仕入れて販売していた。つまり、小売業だったため収益率はそれほど高くなかった。自前でパンを製造したいと思ったものの、作り方を知るよしもなかった。
すると、偶然にもパンの製造技術を持った林崎豪郎氏が店に立ち寄り、面識ができた。間髪入れずに、茂太郎氏は山形県酒田市に住んでいた林崎氏の元を訪れ、協力してほしいと直談判した。林崎氏は快諾し、ベーカリーとしての営業を始めることができたのである。
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