非常時のローミングやSIMなし緊急通報はなぜ実現困難なのか? KDDI大規模障害で注目:房野麻子の「モバイルチェック」(3/6 ページ)
7月2日に発生したKDDIの大規模障害。そんな中、注目を集めているのが、障害時などに臨時的にほかの事業者のネットワークを利用する「事業者間ローミング」だ。
ローミングでも契約事業者の加入者DBを照合している
ローミングの典型例が、海外でも国内で契約した携帯電話をそのまま利用できる海外ローミングだ。普通、携帯電話は他社の基地局には接続しないが、海外では現地の携帯電話会社の基地局に接続してデータ通信や音声通話を利用している。これは国内の事業者と海外の事業者がローミング契約を結んでいるから可能になっている。
海外ローミングの仕組みを表しているのが次の図になる。
「PLMN」という用語があるが、これは携帯電話ネットワークのことだと考えていい。ユーザーが元々契約している日本の携帯電話会社Aのネットワークを「Home PLMN」、訪問先(携帯電話会社X)のネットワークを「Visited PLMN」という。日本で契約した携帯電話をSIMごと海外に持ち出すと、現地でX社が選ばれてVisited PLMNを利用する。
実はHome PLMNとVisited PLMNはつながっていて、海外に行った携帯電話の利用許可の要求は、Visited PLMNの一部を利用しながら送られ、ぐるっと回って日本のHome PLMNの加入者DBに照合される。最終的に日本の加入者DBによって許可が出されて通信が可能になる。音声通話の場合も、日本側にあるVoLTEの設備を経由して日本の電話網につながる形になっている。海外の基地局につながっていながら日本の電話番号を使えるというのは、このためだ。
海外の通信設備につながっていても、利用許可を出しているのは日本の加入者DB。持ち出したSIMカードとペアになって認証しているのは、あくまで日本の加入者DBであるということがポイントだ。
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