非常時のローミングやSIMなし緊急通報はなぜ実現困難なのか? KDDI大規模障害で注目:房野麻子の「モバイルチェック」(4/6 ページ)
7月2日に発生したKDDIの大規模障害。そんな中、注目を集めているのが、障害時などに臨時的にほかの事業者のネットワークを利用する「事業者間ローミング」だ。
非常時の事業者間ローミング
今回、総務省で検討しようとしているのは、災害時や通信障害時に国内の事業者間でローミングを活用することだ。1社のネットワークで障害が発生したら、国内の他社のネットワークに迂回してデータ通信や音声通話を実現しようという考えになる。
これについてはさまざまな意見が出ている。「緊急通報だけでも実現すべき」という意見に対し「日本の法律上できない」という意見もある。「緊急通報だけでなく、データ通信や音声通話もローミングすればいいのでは」という意見もあれば、「それは難しい」という意見もある。さらに「非常時に迂回することは必要だが、その方法はローミングではないのでは」という意見もあるという。
これらの意見については、技術的、法律的な背景がある。この背景について、「緊急通報」と「緊急通報以外の音声通話・データ通信」の2つに分けて堂前氏は説明している。
緊急通報以外ーー加入者DBが故障したらローミングできない
緊急通報以外の音声通話・データ通信を他事業者にローミングする場合、ネットワークのどの設備が故障しているかで、実現可能かどうかが決まるという。
例えばA社のとある基地局で障害が発生した場合を考えてみよう。その基地局の周辺でA社の携帯電話が使えない状態になるが、近くのB社の基地局には電波が届くという場合、海外ローミングと同じような方法でローミングすると通信が可能になる。一部の基地局だけが故障している場合であれば、ローミングで迂回できると考えられる。
A社契約の携帯電話がB社のアンテナにつながり、海外ローミングと同様、B社の基地局とMMEを経由してA社の加入者DBにアクセスできれば、通信の許可が出てB社のネットワークにつながることができる。音声通話に関しても、B社経由でA社のVoLTE設備につながれば電話もできることになる
ところが、一部の基地局ではなく、携帯電話ネットワークの中心部分、例えば加入者DB自体が故障もしくは輻輳(ふくそう)状態にあるような大規模な障害の場合、加入者DBは正しく動かない。全国にまたがる大規模な障害が発生した場合は、ローミングで迂回しようとしてもできないだろうと考えられる。
今度はA社の加入者DB付近の設備に障害が発生した場合だ。通信できなくなったA社の携帯電話がB社の基地局を見つけたとする。ローミングでは、B社経由で通信したいというリクエストを出すが、結局A社の加入者DBに許可を得なくてはならないので、A社の加入者DB付近で故障が起こっているこの場合は、ローミングのリクエストにまともな返事ができない。つまり、ローミングは成立しない
現在のローミングは、加入者DBが正常に動作していることが前提だ。加入者DBがトラブルを起こしているような大規模障害の場合、現状考えられる技術ではローミングは機能しないということになる。なお、局所的な基地局の障害であれば迂回は可能だが、ローミングは自動的にできるわけではない。例えばスマートフォンの場合は、ユーザーが自分で迂回先を指定する必要がある。
また、携帯電話ネットワークを使ったIoT機器の場合、これらはスマートフォンのように人が日常的に触れるものではないので、人の手で迂回先を切り替えることができない。そのため、なんらかの手法でIoT機器自体が障害を検知し、接続先を切り替えるプログラムをあらかじめ仕込んでおく必要がある。
ただ、堂前氏は「これは“言うは易く行うは難し”の典型例で、切り替えれば迂回できる障害かどうかを検知することは非常に難しい」と話している。もちろん、通常時は人が指示を出して一斉に接続先を切り替えるケースもあるが、障害時は指示を送る携帯電話ネットワーク自体が止まっている。IoT機器の場合、スムースにローミングに切り替えるのは難しいという認識だ。
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