非常時のローミングやSIMなし緊急通報はなぜ実現困難なのか? KDDI大規模障害で注目:房野麻子の「モバイルチェック」(5/6 ページ)
7月2日に発生したKDDIの大規模障害。そんな中、注目を集めているのが、障害時などに臨時的にほかの事業者のネットワークを利用する「事業者間ローミング」だ。
特別扱いの緊急通報
110番、119番、118番などの緊急通報は、携帯電話の中で特別扱いされているという。携帯電話ネットワークの利用許可であるAttachやRegistrationの手続きなく、いきなり発信してもいいからだ。
携帯電話の国際標準仕様を策定する機関「3GPP」では、SIMがない状態でも緊急通報の発信が可能とされている。SIMがないので加入者DBに許可がもらえず、AttachもRegistrationもできない状態でも緊急通報はできる規格ということだ。SIMカードを入れずに携帯電話を起動すると、ピクトエリアに「緊急通報のみ」と表示されることがあるのはそのためだ。しかし、日本では現在、SIMなしでの緊急通報はできないようになっている。
3GPPの規格上の緊急通報は以下の図のように実現されている。
図のように、例えばA社のユーザーが緊急通報する際にB社の設備を使うとする。緊急通報はAttachもRegistrationも不要なので、A社の加入者DBに許可をもらう必要はない。しかも、A社の電話網を使わずに、訪問先のB社の電話網を使って、VoLTE設備から直接通話できる仕組みになっている。一見、ローミングしているように見えるが、まったく違う流れで通報している。ただし、日本ではこの仕組みは動作しない。
なぜなら法律が認めていないからだ。「事業用電気通信設備規則 第35条の2の4」などに緊急通報に関する決まりが記されている。
緊急通報の仕組みは基本的にアナログの固定電話、いわゆる「家電」がベースになっている。緊急通報は非常に特別な仕組みで、日本中、どこにいても適切な警察や消防、海上保安庁につながる。通報すると、緊急通報指令台に契約者の氏名、住所、電話番号が自動的に通知され、受理機関の地図上で場所を確認できるようになっている。さらに、通報して電話を切った後も、「回線保留(強制的に電話をつなげたままにすること)」や「逆信・呼び返し(警察や消防側から折り返しできる機能)」ができる。
万が一、通報者が話せない場合でも、アナログ固定電話の契約者の住所は電話の設置場所であり、現場に急行できる。あるいは、現場に向かったはいいが様子がよく分からないという場合でも、呼び返しで詳細を聞き返すことができる。ちなみに、特に救急や消防では逆信・呼び返しが重視されているという。
こうした緊急通報の機能は、当初、携帯電話では実現されていなかった。しかし携帯電話が普及し、携帯電話からの緊急通報が増えてきたことから、2003年から2007年に開催されたさまざまな研究会で、携帯電話でも同じような機能を実現していくべきだという提言がなされ、機能が追加されていったという。
現在の携帯電話は、通報位置に応じて適切な警察署、消防署などに接続する。携帯電話にはGPSが搭載され、緊急通報した場合は自動的にGPSが起動して現在位置を通知することになっている。さらに、電話を切った後でも、緊急通報指令台からのコールバック(折り返し)が可能だ。アナログ固定電話の場合と技術的には異なるが、相当する機能が実現されている。
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