禅問答に学ぶ「トラブル発生時に、まず変えるべきマインドセット」:茶道に学ぶ接待・交渉術(1/3 ページ)
「脚下照顧(きゃっかしょうこ)」という張り紙が、禅寺の玄関や、トイレなどに掲げられているのをご覧になった方もおられるかと思います。実はこの言葉には、仕事への姿勢にも通ずる学びがあります。
連載「茶道に学ぶ接待・交渉術」
テレワークにオンライン会議など、新たなスタンダードが登場した現代は、これまでのビジネスの前例だけでは、カバーしきれなくなった時代です。そんな時代には、日本人が古くから狭い茶室で対面していた時にはどんな配慮が求められていたかを参照してみることにも、意味があることでしょう。
本連載では、現代のビジネスシーンでも応用できる、茶道に伝わる格言をご紹介します。
足元に気を付けなくなった時代にこそ学びたい「脚下照顧」
「脚下照顧(きゃっかしょうこ)」という張り紙が、禅寺の玄関や、トイレなどに掲げられているのをご覧になった方もおられるかと思います。この場合「脚下照顧」とは、「履物を脱ぎ散らかさないでください」という乱雑な脱ぎ方への戒めのメッセージです。
現代では、オフィスには靴を脱いで上がる必要はありませんし、相手のオフィスを訪れる機会も少なくなってまいりました。そんな時代ではありますが、この「脚下照顧」の本来の意味にさかのぼってみると、実は仕事への姿勢にも通ずる学びがあります。
他人を非難する前に、自分を顧みる
履物をきちんとそろえなさいという注意が、「脚下照顧」の意味だけだと考えたら、それは特殊な文脈に依拠しすぎています。足元に常にあるのは履物ではなく、ご自身の足でしょう。
例えば、夜中に火災警報に驚かされて、屋外に退去する場合を考えてみましょう。貴重品などを持って外に出て、自分は落ち着いて行動したと思っても、足元がはだしだと気付いて初めて、動揺していることを認識する──こんなこともあるかもしれません。
足元を見ることは、自分のありのままの状態をしっかり見つめることにつながります。「我が身を振り返りなさい」という意味でも「脚下照顧」は使われます。
禅問答が導く自律的姿勢
「脚下照顧」という言葉はもともと、「照顧脚下」との語順で発せられたようです。南北朝時代の禅僧・孤峰覚明が、弟子から「禅の極意とは何か」を聞かれた時に、弟子に与えた言葉と伝えられています。
禅の極意を問う問答は、古くから伝えられているので、南北朝時代の禅僧となると、これまでの問答を踏まえた上で、答えを発していると考えたほうがよさそうです。このため、過去の有名な問答を探っておきましょう。
唐代の禅僧・趙州(じょうしゅう)の「庭前柏樹子」という答えが、『無門関』という書物に収録されています。師匠と修行僧とのやりとりに南宋時代の禅僧無門慧開の評が付せられたこの書物は、日本にも無門の弟子によってもたらされて普及しました。「羊頭狗肉」の出典も『無門関』です。
禅の極意は「庭前柏樹子(庭の前の柏の木)」だと説かれた弟子は、自分たちの外側で認識されるようなもの(境)で答えないでください、と問い返します。おそらく、弟子は、内面的な問題としての答えを求めていたのでしょう。それに対して趙州は、自分は決して自分たちの外側で認識されるもの(境)として答えているのではないと返します。それに対して、弟子が問いかけを繰り返すと、趙州は、再び「庭前柏樹子」と答えたというのです。
この問答は、目の前にあるものを、見えているという風に他律的に捉えるのではなく、自分自身がそのように見ているのだと自律的に認識しなさい、という教えだと解釈できます。
「問題が起こりました」と報告した部下に対して、「問題を起こしたのだろう」と上司が注意しているようなものです。自分が問題を起こした、と受け止めることで、解決への道筋が生まれてきます。
上司はなにも、責任を部下に転嫁しようしているのではありません。部下に対して、自分が起こした問題ならば、原因を究明する姿勢を持ってもらいたいと思っているのです。なぜならば、問題に自分事で組んでこそ初めて解決策が導き出されるからです。
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