ファンが地方鉄道を支援、今後はサブスクも? 鉄道系クラファンの新潮流:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/6 ページ)
大井川鐵道が、蒸気機関車を完全修復し、本線を走らせるために、1億円のクラウドファンディングを開始した。近年、鉄道事業者による車両の動態保存を目的としたプロジェクトが増えている。この仕組みを使って、既存の保存車両の修繕プロジェクトをつくれないだろうか。
鉄道分野のクラウドファンディングが大型化している。
大井川鐵道が2022年9月20日から1億円のクラウドファンディングを開始した。資金の用途は蒸気機関車、C56形135号機の完全修復だ。兵庫県加東市の公園で朽ちかけていた機関車を譲り受けて、本線を走らせるまで復元する。修理費用の概算見積は約3億円。その一部を鉄道ファンに応援してもらう。クラウドファンディングサイトは「READYFOR」だ。
1億円といってもREADYFORの手数料が引かれるから「手取り」は減る。READYFORの手数料は専任担当がつく「フルサポートプラン」が17%+消費税、メールサポートのみの「シンプルプラン」が12%+消費税。ただし比類なき大型案件のため、手数料非公開の「フルサポートプラス」になるだろう。支援メニューを見ると返礼品の原価の平均は2割くらいか。大井川鐵道が手にする現金は7500万円前後になると思われる。
総費用3億円に対して7500万円は、金額が小さい気がする。2億円のクラウドファンディングで1億5000万円。やっと半額に近づく。だからクラウドファンディングの戦略としては「早期に達成して、セカンドゴールとして2億円を目指す」だろう。READYFORの手数料も倍になる。プロモーション費用をかけてモトは取れる。
クラウドファンディングサイトは純粋に手数料を稼ぎたい。内容に対する思いはなくても、成功すれば発起人の目標達成につながる。経済学の父、アダム・スミスの国富論「見えざる手」そのものだ。ただし、READYFORは早期から鉄道文化遺産案件に注目しており、社内に専門のプロジェクトチームを持っている。起案に対して審査が厳しいようだけれども、それだけに良い企画に絞られ成功率は高い。支援者も安心できる。
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