ファンが地方鉄道を支援、今後はサブスクも? 鉄道系クラファンの新潮流:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/6 ページ)
大井川鐵道が、蒸気機関車を完全修復し、本線を走らせるために、1億円のクラウドファンディングを開始した。近年、鉄道事業者による車両の動態保存を目的としたプロジェクトが増えている。この仕組みを使って、既存の保存車両の修繕プロジェクトをつくれないだろうか。
大井川鐵道が1億円のスタートを切ったことで、鉄道系クラウドファンディングのプロジェクト自体の規模も上がりそうだ。10月3日に始まった「東京さつきホスピタル(調布市)に東急8500系を設置しよう!!」は、東急電鉄が売却を発表した電車を買い取り、病院の敷地内で公開保存するプロジェクト。目標金額は最初から2900万円と大きい。しかし2日目には800万円以上を集めている。実行者が病院という公益事業者だけに、鉄道ファンにとどまらず、患者、元患者、その家族とみられる支援者も多い。100万円単位の大口支援者がいる。
クラウドファンディングの弱点があるとすれば「鉄道ファンにとって残したい車両」になりやすい。つまり人気投票になりがちで、「産業的に残す価値がある車両」と一致しないことだ。
小田急ロマンスカー3000形の開発に関わった生方良雄氏(故人)は著書で、「産業遺産というならば、生み出した企業が責任を持って残すべき」と語っていた。小田急電鉄はロマンスカーミュージアムをつくったけれども、日本で初めて直角カルダン駆動方式を採用した2200形は展示されていない。ただし技術資料として小田急内で保存されている。
小田急電鉄ほどの大企業であれば保存車両の維持費はなんとかなる。しかし、経常赤字、自治体から支援を受けている企業は車両を保存する費用を捻出できない。補助金を鉄道ファンの趣味に使うな、という話になってしまう。だからこそ、地方鉄道がクラウドファンディングを利用すれば、保存費用のために新しいお財布を持てる。地方鉄道では「あさてつファンクラブ」「えちてつサポーターズクラブ」のような公式ファンクラブで会費を募っている。これもクラウド(大衆)ファンド(資金)の一種といえるだろう。
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