「お互いうまくやろうぜ」パワハラを助長する同僚──日本特有の「いじめ構造」の闇:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(2/4 ページ)
なぜ、職場でのパワハラはなぜなくならないのか? パワハラ被害に遭い、「自分が悪いのだろうか」と考えるまでに追い詰められた42歳男性の事例をひもとくと、日本企業ならではのパワハラの構図と、パワハラ防止策が無意味に終わりがちな理由が浮かび上がってきた──。
「自分が悪いのか?」 42歳男性のケース
僕、前の職場でパワハラに遭っていたんです。でも、渦中にいる時って、そうは思えないんです。変な例えかもしれませんが、ドメスティック・バイオレンスを受ける人の気持ちが分かるような気がしました。
これは以前、インタビューした男性がこぼした一言です。
男性は某企業に勤める42歳。「自分のキャリアをひたすら語ってもらう」という趣旨の私のインタビューで、自身のパワハラ経験を話してくれたのです。
僕は若い時から生意気で、相手が上司だろうと何だろうと意見を言ってきました。上は使いづらかったと思います。でも、入社して最初の上司が、社内の改革派と呼ばれている人でして。その人がサポートしてくれたおかげで、いろいろとやらせてもらいました。
ところがその上司が異動し、新しい上司の元で働くことになって、全てが変わりました。何を言っても否定され、みんなの前で怒鳴られる。部屋に1人呼ばれてチクチクと言われることもありました。
そうやってずっとダメ出しばっかりされると、だんだんと自分が悪いのではないか、と思うようになってしまったんです。
それで、とにかく上司に認めてもらおうとするようになった。よくドメスティック・バイオレンスを受けている人が、悪いのは自分だと言って相手をかばうと聞きますけど、僕もずっとそんなふうに自分を責めていたように思います。
でも、周りはパワハラに気が付いていたはずなんです。コテンパンにみんなの前でやられることはしょっちゅうありましたから。それである日、僕がいつものように上司に怒鳴られて、その時はもう、自分でもどうしていいのか分からず、立ち尽くすことしかできませんでした。
そうしたら、結構仲良くさせていただいていた先輩から、「まぁ、お互いうまくやろう」と言われてしまった。先輩は励ましたつもりだったのかもしれません。でも、ああ、やっぱり自分がダメなんだと、自分が嫌になりました。
今振り返ると、僕はあの時はすでにうつの一歩手前だった。それから数日後、朝、どうしても起きられなくて会社を休みました。家でずっと寝ていたんです。
そしたら、たまたま大学の同級生から電話があって、多分僕の様子が変だって、気付いたんでしょうね。彼は同級生たちの近況をいろいろと話してくれた。僕のリアクションが薄いのに、ひたすら話つづけました。あいつがどうしてるだの、〇〇さんが結婚したらしいとか。
で、その時に上司からパワハラを受けて自殺未遂を起こした同級生の話を聞いて。急に目の前が開けた。ああ、僕と同じ目にあってるじゃないか、って。悪いのは僕じゃなかった。あれはパワハラなんだって。
そう気づいたら、ずっと自分にのしかかっていた重しが取れて、会社をやめようって決心しました。
僕は運が良かったんだと思います。同級生との電話に救われたんですから。もし、それがなかったらって考えると、ちょっと怖いですね。
さて、いかがでしょうか。
この男性のように、実際にはパワハラなのに、「自分が悪いのではないか」と自分を責める人たちは少なくありません。人間の「他者に認められたい」という承認欲求の隙間に、パワハラ上司が入り込んでいくのです。
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