「お互いうまくやろうぜ」パワハラを助長する同僚──日本特有の「いじめ構造」の闇:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(3/4 ページ)
なぜ、職場でのパワハラはなぜなくならないのか? パワハラ被害に遭い、「自分が悪いのだろうか」と考えるまでに追い詰められた42歳男性の事例をひもとくと、日本企業ならではのパワハラの構図と、パワハラ防止策が無意味に終わりがちな理由が浮かび上がってきた──。
傍観者が加速させる、日本のいじめ構造
件の男性のケースでは、それに拍車をかけたのが「まぁ、お互いうまくやろう」という先輩の一言でした。
お互いうまくやろう──。先輩は一体、どういう意味でこの一言をかけたのでしょうか?
「おまえも大変そうだけど、オレたちも大変なんだよ」と、自分たちも同じようにパワハラを受けていると言いたかったのでしょうか?
あるいは、「おまえのやり方にも問題があるから、もう少しちゃんとやれよ」と、暗に彼にも問題がある、と言いたかったのでしょうか?
真相は分かりません。しかし、一つだけ確かなのは、“傍観者“である先輩も「パワハラに結果的に手を貸した」という、歴然たる事実です。
そして、傍観者がパワハラを加速させる構造は、日本特有のものだと推察できる分析結果があります。
「子どもの世界は大人世界の縮図」と言われますが、1980年ごろから日本も含めて世界の国々で、「子どものいじめ」に関する研究が蓄積されています。その中で、日本には欧米とは異なる独特の「いじめの構造」があることが指摘されているのです。
欧米のいじめでは、「強い者が弱い者を攻撃する二層構造」が多いのに対し、日本では「いじめる人、いじめられる人、はやし立てる人、無関心な傍観者」という4種類の人で構成される「四層構造」がほとんど。四層構造では強者からの攻撃に加え、観衆や傍観者からの無視や仲間はずれといった、集団内の人間関係からの除外を図るいじめが多発します。いわば「集団による個の排除」です。
その結果、被害者は孤立し、「自分が悪いのでは?」と自分を責める傾向が強まることが分かりました。
もちろんこれは、「子どものいじめ」研究の中で確認されたものです。
しかし、大人社会の「村八分」などは、四層構造の典型的なケースですし、四層構造における「はやし立てる人」には、件の先輩のように「まぁ、お互いうまくやろう」とパワハラを批判しない人たちも含まれます。
さらに厄介なのは、四層構造の「無関心な傍観者」の多くが、自分がいじめに加担しているという意識がほぼないという、困ったリアルです。
関連記事
- 「課長まで」で終わる人と、出世する人の決定的な差
「『課長まで』で終わる人と、出世する人の決定的な差」とは何か? がむしゃらに働いても、出世できる人とそうでない人がいる。その明暗を分けるたった1つのポイントを、解説する。 - 「新人が育ってくれない」と悩む上司が知らない、Z世代の特徴とは
新しい価値観を持つ「Z世代」が新入社員として働き始めている。仕事への向き合い方をめぐって摩擦が起きる現場も少なくない。Z世代は何を考えているのか、それに対し、上司などの旧世代の社員はどのように対応すべきなのか。 - “スーツ姿の客”がネットカフェに急増 カギは「PCなし席」と「レシートの工夫」
コロナ禍で夜間の利用者が激減し、インターネットカフェ業界は大きな打撃を受けた。そんな中、トップシェアを誇る「快活CLUB」では、昼にテレワーク利用客を取り込むことに成功、売り上げを復調させた。そのカギは「PCなし席」と「レシートの工夫」にあるという。どういうことかというと……。 - 「課長にすらなれない」──絶望する40代社員が増えるワケ
真面目に勤めてきたが、上の世代とは違い「課長にすらなれない」──そんな状況に絶望する40代社員が増えています。減り続ける管理職ポストの実態と、深刻な賃金格差とは。「肩書きなき40歳問題」について河合薫氏が解説します。 - 「氷河期の勝ち組」だったのに……40代“エリート課長”に迫る危機
自分をエリートだと信じて疑わなかったサラリーマンが、社内の方針転換により出世のはしごを外されることがある。エリート意識や、能力主義への妄信が生む闇とは──?
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.