「空気が読めない」社員が、ADHDだった──どうしたらいい? 発達障害・パーソナリティ障害・精神疾患の人への接し方:トラブルが起きた際には(7/7 ページ)
多様な人材が働く職場では、従業員の言動に頭を悩ませることもあります。知っておきたい「発達障害」「パーソナリティ障害」「精神疾患」の特性と対処法を紹介します。
【2】双極性障害
(1)双極性障害の特性
躁(そう)状態とうつ状態を繰り返す疾患です。躁状態になると、気分は高まりますが、判断能力が下がり、無謀な言動が見られます。うつ状態になると一転して、人が変わったように気分が落ち込みます。
こうした極端な気分の波によって、社会的信用を失い、人間関係を壊してしまう危険性の高い精神疾患です。
【事例】 気分の浮き沈みを繰り返す従業員
数カ月単位で、気分の浮き沈みがみられます。調子がよいと、早朝から仕事をするので「頑張り過ぎではないか」と声をかけたところ、「これが本当の私です。頑張ります」と言い、残業もいとわず働きます。最近では、いろいろな仕事をやりたがりますが、どれも中途半端です。指摘すると怒りをあらわにするので、周囲もどう接してよいか分からずにいます。
数カ月後、今度は人が変わったように暗い雰囲気になり、身なりを気にせず、前日と同じ服装で出社する日も。仕事中はぼんやりしていて、気力がありません。
(2)双極性障害の人への対処法
双極性障害は、性格の問題ではないため、病気への理解が不可欠です。再発のリスクが高く、生活リズムが崩れると症状が悪化します。指示をしていないのに早朝出勤や残業をし始める、多弁で攻撃的な態度が見られたら、躁状態を疑いましょう。
精神科の治療では、通院初期から、生活リズムを整えるためのリズム表を用いた指導をします。そのなかで、躁状態・うつ状態に向かっているサインを見つけ、症状をコントロールできるように働きかけていきます。
本人とは、症状が安定しているときに、躁状態・うつ状態に向かっているサインと、そうしたときの対応策を事前に共有しておきましょう。
問題行動をしている当人も、悪気はなく苦しんでいることが多いものです。周囲の理解と配慮で対応できるなら、関係者全てがよい環境になります。
一方、本人の行動が行き過ぎていて、改善の余地がない場合は、会社として毅然(きぜん)と対応する必要もあります。現場の管理職が1人で抱え込んでいる場合もあり、相談先の確保、専門家の助言など、チームで対応することが重要です。
会社は基本的には、問題行動を起こした人の特性ではなく、その行動に対して対応しますが、主治医や産業医に支援もお願いして、強い個性には配慮や指導、病気であれば配慮や休職と個別に理性的な対応が必要です。
著者:山本 喜一(やまもと・きいち)
特定社会保険労務士・精神保健福祉士
社会保険労務士法人 日本人事代表。上場支援、ハラスメント、メンタルヘルス不調者対応などを得意とする。
著者:今井 希依(いまい・きえ)
臨床心理士・公認心理師
精神科病院、スクールカウンセラー、巡回相談員等でカウンセリング、心理検査の仕事に従事。職場の関係性向上を支援する。
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