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70年の悲願、「新金線旅客化計画」の現在杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/6 ページ)

東京都で新線計画が進んでいる。22年だけでも東京メトロや多摩都市モノレールなどの延伸で、事業許可や計画策定がされた。そして東京都にまだある沿線の悲願の1つが葛飾区の「新金線旅客化計画」だ。新金線は貨物専用線で、沿線住民は貨物走行のない時間帯に旅客列車の運行を望んでいる。

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新金線の歴史と、現在の周辺交通

 新金線の開通は1926年(大正15年)だ。当時は総武本線の起点が両国駅で、隅田川の鉄橋がなかった。千葉方面からの貨物は両国で渡し船に積み替えるか、亀戸駅から東武鉄道を経由して北千住から常磐線に入って都内に向かった。新金線の開通によって、総武線と常磐線を短絡するルートができた。

 1932年(昭和7年)に総武本線は両国から御茶ノ水駅へ延伸されるけれども、電車専用となったため貨物列車は新金線経由のままだった。

 新金線旅客化については、1953年(昭和28年)の第16回国会で質疑された。「地元に強い要望がある。新金線を複線化し客車を運転すべきではないか」。これに対して、首相の吉田茂は「現在の国鉄予算では整備資金が出ない」と却下した。

 しかし、1978年に武蔵野線が開業して迂回(うかい)ルートができ、1984年に国鉄の貨物列車改革が行なわれると、新金線の貨物列車は激減する。市販の「貨物時刻表(鉄道貨物協会)」によると、22年3月改正ダイヤで、新金線は平日に下り4本、上り5本。土日に運休する列車もあるし、貨物がなければ走らない列車もある。しかし、越中島貨物駅から大井の東京貨物ターミナルまでレールを運搬する列車があり、そのレールはJR東日本全域に運ばれるから、貨物列車がゼロになることはない。

 貨物列車が走らない時間帯は、旅客列車を運行してほしい。これが沿線住民の悲願だ。「いままで騒音や踏切待ちをガマンしてきたんだから、今度は便利に使わせてほしい」という心情は十分に理解できる。

 現在、葛飾区の鉄道網は東西方向ばかりだ。北から常磐線、京成本線、北総鉄道、京成押上線、総武線がある。区の中心部に京成高砂駅があり複数の路線化集積。そこから金町まである京成金町線は、唯一の南北方向の鉄道だ。しかし葛飾区南端まで届かない。

 葛飾区の南北方向は路線バスが担う。鉄道を補うため路線網は充実しており、南北の幹線は金町駅〜小岩駅、亀有駅〜新小岩駅、新小岩駅〜綾瀬駅のようだ。東西方向も鉄道線路の間を通っていて、網の目のような路線網だ。しかし、なかには土日運休という路線もある。

 葛飾区が提供しているバス路線図を見ると、新金線沿線のバスが少ない。京成高砂駅の北側から南方面の小岩、新小岩へ行く路線がないし、京成高砂駅の南側から北方面の金町へ行くバスがない。これはバス会社が避けているわけではなさそうだ。かつて沿線を歩いた時の観察と、地図と航空写真の調査を見比べると、どうやらバスが通行可能な幅員の道路がないように見える。新金線の沿線は交通空白地であり、この線路がLRTになれば便利だと思う。


葛飾区のバス路線網。新金線周辺に空白地帯がある(出典:東京都葛飾区、バス交通に関する情報を筆者が一部加工)

 16年の国土交通省交通政策審議会答申198号では、新金線に平行する環状7号線(都道318号)の地下鉄構想「メトロセブン」が盛り込まれている。こちらは新規地下鉄建設のため膨大な費用がかかる。もう何回も審議会答申に盛り込まれたまま進展していない。それに比べれば新金線旅客化は実現性が高そうだ。


国土交通省交通政策審議会答申198号で示された「区部周辺部環状公共交通」。赤羽を境に西側が「エイトライナー」、西側が「メトロセブン」。赤枠が新金線と平行している。ただし新中川を挟んでいるため地域としては別といえる

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