北総鉄道が値下げしても、スカイライナーは“そのまま”のワケ:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/5 ページ)
身近な商品の値上げが続くなか、北総鉄道の運賃値下げが予定通り実施された。北総鉄道は「日本一運賃が高い鉄道」という不名誉で知られる。もし北総鉄道の名前は知らなくても、スカイライナーに乗った人は必ず通っている。しかし今回の値下げで、スカイライナーは値下げにならない。なぜだろうか。
なぜスカイライナーは値下げしない?
鉄道運賃の値上げは国土交通大臣の認可が必要になる。公聴会も行なわれるなど手続きは容易ではない。一方値下げは、手続きだけは簡単だ。実際には収入が下がるわけで、もともと私腹を肥やしていたわけでもなく、社内財務状況は大変だと思う。しかし、手続きとしては、値上げしたときに認められた上限の範囲だから届け出だけで済む。
値下げのポイントは2点。まず普通運賃全体の値下げだ。初乗り運賃は210円から190円へ、約10%の値下げ。今まで厚みがあった10〜20キロメートルの運賃の下げ幅を大きくし、最大で105円(12〜14キロメートル区間、IC乗車券)の値下げになった。北総線の旧運賃体系は特殊だった。これが少しだけ解消された。北総鉄道の報道資料によると「北総線内をお出かけしやすいように」という。
多くの鉄道が遠距離逓減制を採用し、長距離区間ほど1キロメートル当たりの単価が下がる。しかし北総鉄道は中距離区間のほうが長距離区間より1キロメートル単価が高い。12〜14キロメートル区間のIC運賃は1キロメートル当たり約48円。30〜33キロメートル区間のIC運賃は1キロメートル当たり約28円。前出の「北実会」はこれを「中央が太ったメタボ運賃」と呼んでいる。
筆者は初乗り運賃を少しでも安くするために、最も利用者の多い新鎌ヶ谷から都心直通方面の運賃を盛ったのではないかと疑っている。監督官庁の国土交通省が是正させるべきだった。
次に通学定期運賃の大幅値下げだ。通勤定期は会社負担。通学定期は家庭負担。だから市民にとって通学定期運賃の値下げのインパクトは大きい。普通運賃が下がるので通勤定期運賃も下がるけれども、通学定期運賃は最大64.7%だ。だいたい3分の1になる。ただし、これでやっと京成電鉄の通学定期運賃と同額になる。今までが高すぎた。
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