「年下上司にバカにされ、手柄を奪われた」 45歳男性を追い詰めたものの正体:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(1/3 ページ)
年下社員が上司になり、複雑な思いを抱える45歳の男性。ある事件をきっかけに、それまで押さえ込んでいたネガティブな感情が限界を超え「自分でも信じられないような行動を取ってしまった」といいます。男性を追い込んだものの正体とは──?
自分を尊重してほしい。自分に敬意を払ってほしい──。年齢や立場に関係なく、誰もが抱く気持ちです。
そんな気持ちを踏みにじられていると感じながらも、45歳だった男性は耐えていました。年下の社員が上司になり「バカにされている」と感じることがあっても「仕方がない」と耐えた。しかし、ある事件をきっかけに、それまで押さえ込んでいたネガティブな感情が限界を超え、「自分でも信じられないような行動を取ってしまった」そうです。
年下上司に手柄を奪われた──45歳男性が取った行動は
男性は、当時を振り返ってこのように話しました。
ちょうど45歳になったとき、年下が上司になりました。なんやかんやいって、それまでは年功序列だったし、自分でもそれなりに仕事をやってきたという自負があったので正直ショックでした。しかも、彼は明らかに上しか見ていない、出世しか考えていないような男だったんです。
今思えば、彼はあの時自分が思っていたほど悪い男ではなかったかもしれません。でも、当時の私は、そんなふうには到底思えなかったんです。年下上司が決して珍しくないことは、頭では分かっていました。でも、実際に自分が当事者になるとダメですね。現実を受け入れられなかったんです。
ある時、ずっとライバル会社のクライアントだった顧客を、私が取ることに成功して社長賞をもらえることになりました。金一封、10万円を褒美にもらえるんですよ。本当に、うれしかった。自分はまだこの会社にいる意味があるんだ、と思えましたから。折れかけていた心が、ギリギリつながりました。
ところが授賞式に行こうとしたら、「アナタは来なくていい」と彼に言われましてね。彼はまるで自分の手柄のように社長から記念品を受け取り、褒美の10万円も何食わぬ顔で懐にしまい込んだ。そこで私の中で、何かが切れてしまったんです。
それからというもの、私は彼のことを徹底的にいじめるようになりました。会議ではわざと彼が知らないような質問をしましたし、「役員会議に出席するのに作ってほしい」と彼から求められた資料を、わざと作り忘れたふりもした。話しかけられても無視。どうしても、返事をする気になれなかった。
なぜ、あんな幼稚なことをしてしまったのか分かりません。今、思い返すだけで恥ずかしい。でも、あの時は、彼はそれだけひどいことを自分にしたんだから、やられたって仕方がないじゃないかと思っていたんです。
結局、彼は転職しました。ひょっとすると、自分が原因だったのかもしれません。転職先はうちの会社よりも大きなところでしたし、うちよりも給料もいいので悪い転職ではなかったはずです。でも、申し訳ないです。自分は幼稚で小さい人間なのでしょうか。お恥ずかしい話です。
さて、いかがでしょうか。これは男性が50歳の時にインタビューで話してくれた内容です。
私は、ひたすらキャリア人生を語ってもらうという趣旨で多くの社会人にインタビューをしています。男性はインタビューでの話を一通り終え、雑談している時にこの「パワハラ体験」を切り出しました。
誰にも言えなかった秘密を、話さずにはいられなくなった。自分のキャリア人生の一つの出来事として、私に話すことで「きちんと後悔しよう」とケジメをつけたかったのだと思います。
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