「年下上司にバカにされ、手柄を奪われた」 45歳男性を追い詰めたものの正体:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(2/3 ページ)
年下社員が上司になり、複雑な思いを抱える45歳の男性。ある事件をきっかけに、それまで押さえ込んでいたネガティブな感情が限界を超え「自分でも信じられないような行動を取ってしまった」といいます。男性を追い込んだものの正体とは──?
パワハラ加害者を生む、理不尽で幼稚な組織
男性の経験は、もし“年下上司の彼”がコンプライアンス委員会などに報告をしたら、間違いなくパワハラに認定される悪事でした。
しかし、果たして何人の人が、同じ状況に遭遇した時、彼のような幼稚な行動はしないと言い切れるでしょうか。私には……無理です。自分の存在価値を踏みにじられるような行為をされてまで、理性を保てるほど強くいられる自信はありません。
そして、ひとたび押さえつけていた情動が閾値を超えた途端、幼稚な行動を繰り返してしまうほど、コントロール不能になってしまうことも理解できます。
私はこれまで本コラムでも度々「パワハラ問題」を取り上げてきました。パワハラは絶対に許してはいけないのだ、と。ですから、この男性の言動を、肯定することはしません。
しかし一方で、会社という組織では、必ずしも正当に能力や会社への貢献度が評価されるわけではありません。ときには、極めて私的で、理不尽で、幼稚なものさしで、給料や会社内での地位、与えられる権限までもが変わってくる、という理不尽な現実も存在します。
さらに階層組織の上階の椅子を手に入れたエリートほど、「できる」「できない」で人を判断することがあります。バカにしたり、見下したり、「属性」でしか相手を見なくなったりもします。
「それはそれで仕方がないこと」と、100%全てを受け入れることは容易ではありません。どんなに「まっ、しょうがない」と自分を納得させても、心のどこかで面白くない。
せめて「私」がここにいることを分かってほしい。同じ人間として、「私のことも尊重してほしい」──。
その願いがむげにされたとき、何らかのきっかけで感情が理性を凌駕(りょうが)する。男性が「なぜ、あんな幼稚なことをしてしまったのか分かりません」と自責の念にかられていたように、自分でも理解できない“自分”が顔を出してしまうのです。
今回、男性の独白を取り上げたのは、年下上司とのトラブルを巡る「複雑な心境」を知ってほしかったからです。そして、「自分を尊重してほしい。自分に敬意を払ってほしい」という気持ちがないがしろにされた時、人は愚行に走ってしまう場合があることを、分かってほしかったからです。それは「私」にもパワハラの加害者になるリスクがあることを意味しています。
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