社内で行き詰まったDXは「ダイエット」になぞらえるとうまくいく:DXの本当の進め方(後編)(7/7 ページ)
日本企業のDX成功率は約10%だという。社内でDXの議論が進まないのはなぜか? DXを推進するための方法を「ダイエット」を例に挙げて解説する。
DX推進部のメンバー単位でできることは?
DXの本当の進め方として、前編ではうまくいかない理由を解説し、後編では個人のダイエットになぞらえて、より成功率を高めるためのアプローチを説いた。
DXは企業にとって大きな変革であり、痛みを伴うことも多く、実施は困難を極める。ウチの会社ではできるわけがないとさじを投げたくなった読者もいるかもしれない。しかし、企業の経営層である以上、競争環境における”生き残り”を考えていない人はいない。彼らがDX推進について言及した際に、スピード感を持って実行に移せるように「デジタル技術でできること」を普段から脳に“収納”しておく癖を付けることが個人レベルでできることではないだろうか。
デジタル技術の”脳への収納法”
変革の手段としてのさまざまなデジタル技術に関する知識を、脳の”引き出し”にたくさん収納できている人はDXにめっぽう強い。本稿の締めとして、デジタル技術に出会った時にどうやってその情報を「頭の中の引き出しに収納していくか」について筆者の考えを共有したい。
デジタル技術の進歩はすさまじく、まさに日進月歩といった世界であり、筆者も元々はネットワークの技術者であるものの、最新のネットワーク・インフラ系テクノロジーの中身については表面的な理解にとどまっていると白状しよう。しかし、私はもはやエンジニアではないので技術的な中身についての理解はこれで十分なのである。それよりも大事なことは、その技術は「どんな価値をもたらすか」についての深い洞察である。
例えば、SFA(Sales Force Automation)の存在を初めて認知した時に、これを単なる営業プロセス管理のツールであるという認識にとどまるともったいない。もう一段階抽象化し、「プロセスが推移して変化していくもの全般に使えそうなツール」というレベルで記憶する。そうすると、カリキュラムを受講している生徒のスキルアップ具合を管理したり、顧客から受けた注文の現在のステータスを確認したりなど、活用の幅が広がることに気付ける。
もう少し発想を脹らませれば、農家が田植えのスケジュール管理として使えるのでは、という考えも浮かぶ。このように一段抽象化し、他の用途を具体的に想像した後に脳の中に「しまっておく」のだ。
SFAの技術的な中身に深い知識がなくても問題ない。触れた技術を単に記憶するのではなく、脳の中で「○○に使えそうなテクノロジー」というラベルを貼って収納しておくことで、解くべき「課題」に出会った時にその引き出しが解放されて変革につながっていくのだ。
DXは死語になる?
DXはダイエットのように、つらく険しい道のりであるが、達成したときの恩恵はとてつもなく大きい。何より、ダイエットがうまくいっている人をよく観察すると、それを「楽しんで」いる様子がうかがえる。DXも気の持ちよう次第で「楽しむ」ことだってできるはずである。
さらに言えば、身体が引き締まっている人は普段の自分の行動を「ダイエット」という言葉では説明しない。企業も同じで、本当にうまくいっている企業は自らの行動を「DX」という言葉では説明しないのである。DXのエンディングは、その状態が当たり前になり「DX」という言葉を使わなくなったとき、と言えるのかもしれない。
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