社内で行き詰まったDXは「ダイエット」になぞらえるとうまくいく:DXの本当の進め方(後編)(6/7 ページ)
日本企業のDX成功率は約10%だという。社内でDXの議論が進まないのはなぜか? DXを推進するための方法を「ダイエット」を例に挙げて解説する。
DXを推進する3つのポイント
DXの成功の定義ができたところで、いよいよDXの本当のアプローチに踏み込んでいく。ここでは筆者が推奨する3つのアプローチについて事例を交えて解説していきたい。
何はともあれ、企業トップの意思決定
ダイエットする際、自らの意思とは全く関係なく腹筋が勝手に動いて筋トレを始めるだろうか、勝手に身体がジョギングやランニングを始めるだろうか。考えるまでもなく、自らの意思や決意が最初に存在して身体を鍛えたり食事を見直したりするのである。
考えてみれば当たり前の話であるが、DXの最初の一歩は企業トップの意思決定であるべきだ。確かに部門単位でできることも多いだろう。しかし、それでは最初は良くてもいつか必ず部門の壁に当たり、新たな部分最適が誕生するだけである。
そうは言っても「うちの社長はそんな意思決定はしてくれない。デジタルのことなんか何にも分かってないし」といった愚痴をこぼしたくなるような状況に置かれている読者も多いだろう。トップの意思決定が重要であることに変わりはないが、それを促すためにボトムアップでできることがある。それはDXを重要な経営課題に関連付けて、別の言葉に置き換えることである。
残念ながら、日本の企業の経営層は(他国に比べて相対的に)戦略的にデジタルを活用することに慣れていない、と筆者は日々コンサルティングを通じて感じている。デジタルの本質が分からない人にそれを理解させるのは想像以上に難しく、ましてやボトムアップでそれを成し遂げるのは至難の業である。なので、ここは作戦を変更しよう。
筆者が支援している某社で、DXという言葉を使わずにEX(Employee Experience:従業員体験)という言葉に言い換えて主張し始めたところ、急激に経営層の理解が進んだのだ。この企業の経営層は社員が生き生きと働けていないことに強い危機感を持っていた。デジタル技術を用いてその社員たちを救う手だてのことをDXではなくEXと表現し直したことで、企業の経営層の考えを改めさせることができたのだ。
DX推進組織を正しく組成
トップの理解が得られ、意思決定された暁にはそれを推進する組織作りが次の一手となる。ただし、人を集めるだけではその組織は機能しない。なぜならば、全社変革を推進する組織はあらゆる摩擦と圧力に苛(さいな)まれる宿命を帯びており、それ故に何か武器がなければ全く戦えないのである。
この組織は経営層の直下に設置することが望ましく、「権限」という名の武器を持たせなければならないのだ。筆者が考える「武器になる権限」は以下の3点である。
- 人事に関する権限:DX推進組織へのキーマンの異動、組織内の評価などの決定権
- システムに関する権限:システムのアーキテクチャ、特にデータ連携・分析に関わる部分の決定権
- 予算に関する権限:DXに割り当てられている予算の執行、各プロジェクトへの割り振りの決定権
もちろん、この3つを完璧にそろえることは難しいだろう。それに、特権のような与え方をしてはならない点も難しい。この組織は全社の部門にとって、知恵と予算を捻出してくれる「ヒーロー」のような存在であることが望ましいのだ。
これもまた筆者が知る実例であるが、DX関連予算の執行権限がDX推進組織に与えられていることを利用し、デジタル化を推進したい各部門に対して「ファンド」のような位置づけで予算の援助をしている企業がある。そのファンドの条件として、データ周りのシステムデザインにおけるガイドラインの準拠を設定しており、システムのサイロ化や部分最適を防いでいるのだ。双方Win-Winの実行スキームである。
DX”関連”プロジェクトの整理と見える化
意思決定され、組織の核ができて権限も与えられたら、次に実行すべきは全社のDX”関連”プロジェクトの整理である。始まったばかりのDX推進組織は少数精鋭であることが多く、実務レベルでたくさんの工数がかかる特定のデジタル化プロジェクト専任というわけにもいかない。
そうではなくて、現在その企業において企画もしくは実行されているデジタル化プロジェクトを整理し、DXという「旗印」のもと実行すべきプロジェクトを一覧化してみよう。そして、そのデジタル化プロジェクトの責任者をDX推進組織に巻き込んで、DX推進の当事者になってもらうのである。言い換えれば、DXプロジェクトという大きな概念を”親”として、関連するデジタル化プロジェクトを”子”プロジェクトとして構造化するのである。
こうすることによって、少数精鋭でも社内のさまざまなデジタル化プロジェクトの全体最適を狙うことが可能になるのだ。そして、そのDXの進捗の様子は全社員がリーチできる場所に、状況を可視化して公開することが望ましい。どのプロジェクトにどんな課題があり、どう対応しようとしているかを社員に向けて発信し続けるのだ。
この手の変革の成功事例として、ある大手ゲーム会社の名物プロデューサーの行動が挙げられる。世界的に有名なゲームのプロデューサーはゲーム内のあらゆる調整ごと(バグの対応やゲームバランスの調整意図など)を自分の言葉でユーザーに向けて発信し続けており、ネット生配信は9年で70回を超える。ユーザーからはゲーム運営側の“象徴”として認識し信頼されており、運営とユーザーの一体感の醸成に大きく貢献している。
これはB2Cの事例であるがB2Bにおいても本質は変わらない。DXを推進する部門やチームはコストセンターとしてではなく、変革を推進する事業部として他部署から認識される必要がある。その手段として“象徴”となる個人が矢面に立つというのは、非常に有効な打ち手だ。ゲーム運営とユーザーに一体感が生まれたように、変革を推し進める側と変革を受け入れる側に一体感が生まれる効果が期待できる。
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