「心理的安全性」が高い大企業で、若手の早期離職が加速する皮肉 足りないのは何?:若手のキャリア形成に課題(3/4 ページ)
昨今の日本の若手のキャリア形成にはある大きな謎がある。若手の労働時間や年次有給休暇の取得率などが明らかに好転している一方で、若手の離職率が下がっていないことだ。「心理的安全性が高く働きやすい」大企業を退職する若手が増えるのはなぜか?
心理的安全性とキャリア安全性の両方を高めなければ若手は活躍しない
その上でポイントは、職場の心理的安全性とキャリア安全性がマイナスの相関を持つ点だ。つまり、職場における心理的安全性とキャリア安全性は、両者ともに若手社員のワーク・エンゲージメントを高める性質を持つ一方で、片方を高めればもう片方が低くなる関係を有している。
両方を高めたときに若手が全力で成長し活躍できる環境が生まれるが、しかし両方を同時に高めることが難しい。片方を上げれば、片方が下がる状況にある。「良いじゃん、良いじゃん。どんどんやってみなよ」と言われるだけの職場ではキャリアの不安は全く解消できていないのだ。
日本の大企業は2010年代後半以降、一貫して心理的安全性を高めるアプローチに重点を置いてきたように思える。このアプローチはもちろん各所で効果を挙げたが、しかし若手を育てるという観点では不十分なのだ。
4つの職場
心理的安全性の高低・キャリア安全性の高低をもとに、職場を4つに分類することができる。両方が高い職場を心理的・キャリア形成上の安全が確保された(1)Secureな職場、成長機会や経験が多く積めるが高い負荷がかかる、心理的安全性は低いがキャリア安全性が高い(2)Heavyな職場、心理的安全性は高いがキャリア安全性が低い弛緩を生む(3)Looseな職場(※)、両方が低い二重の危険が迫る(4)Dangerousな職場である。
この4つの職場について、ワーク・エンゲージメントの状況を図表3にまとめた。ワークエネルギースコア、仕事夢中スコアの両者ともに、(1)が最も高く、(4)が最も低い。また、心理的安全性だけが高い(3)よりも、キャリア安全性だけが高い(2)のほうが高い結果になっている。(2)と(3)は心理的安全性・キャリア安全性の面で対極の関係にあるが、似た傾向を示していることは興味深い。
いずれにせよ、職場のキャリア安全性と心理的安全性によって、エンゲージメントにこれほどの差があり、心理的安全性だけでは若手の力を十分に引き出せないことが分かる。
「会社がゆるくて辞めたい」
離職意向との関係はどうだろうか。図表4は「いつまでその会社で働き続けたいか」の結果だ。もちろん、(4)Dangerousな状態の職場にいる若手が最も短期の離職意向が強い。その次に離職意向が高かったのは、実は心理的安全性のみが高い(3)Looseな職場にいる若手であった。
心理的安全性だけが高い状態に不安を感じて離職する。これを「きつくて辞めたい若手」と対比して「ゆるくて辞めたい若手」と筆者は呼んでいる。
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