DX人材の活躍の場はどこに? リスキリングだけでは賃上げが実現しない理由:人材投資をムダにしないために(1/4 ページ)
技術革新が目まぐるしく進む中で、リスキリング(学び直し)の重要性が叫ばれている。新しい知識や技能を習得することは重要だが、学び直しだけで本当に賃上げは実現できるのか。
厚生労働省が発表する毎月勤労統計調査によると、名目賃金の前年同月比は2022年1月以降9カ月連続で上昇しています。しかし、物価上昇分を加味した実質賃金は4月以降6カ月連続でマイナスです。物価高が家計を圧迫し続けている状況への対応策として、賃上げは喫緊の課題になっています。
賃上げを実現させる方法は、以前書いた「30年横ばい……日本人の給与アップ阻む『労使間の格差』 収入増へ個人ができる5つの方法とは?」でも言及していますが、大きく5つのパターンに整理することができます。
賃上げを実現する5つのパターンとリスキリング
まずは、ベースアップや定期昇給、最低賃金のように賃金水準を全体的にアップさせるパターン。賃金水準の見直しは、労使の代表が交渉する形で基本的に毎年行われています。22年の最低賃金は全国加重平均額で31円上昇しました。また、日本労働組合総連合会(連合)は23年の春闘で、ベースアップと定期昇給を合わせて5%程度の賃上げを目指すと発表しています。
次に、人事考課による職能レベルの上昇です。社員等級や職能資格など呼び名は会社によってさまざまですが、職務能力に応じて賃金が上昇する仕組みを採用している職場において最も基本的な賃上げ手法だと言えます。そして3つ目は、同じく人事考課による昇進です。係長や課長など、昇進して役職が上がれば賃金も上がることになります。
さらに、歩合制など成果と賃金が連動する制度を採用する職場にて高い成果を出すのが4つ目のパターンです。賞与のような臨時収入部分だけが、成果連動型になっている会社もあります。最後の5つ目が、好条件での転職です。移った先の会社の賃金水準が高ければ、仮に前職と同様の職務や役職であったとしても賃金が上がることがあります。
そして昨今、賃上げ策の一環としてリスキリング(reskilling:学び直し)という言葉がよく聞かれるようになりました。10月28日、日本経済新聞は「経済対策、岸田首相『経済下振れに備え』補正29.1兆円」という記事で、政府がリスキリングの支援に5年で1兆円を充てること、また成長分野への労働移動と賃上げが目的であることなどを伝えています。
いま必要とされているのは急激な時代変化に対応するための学び直しで、DX(Digital Transformation:デジタル化による変革)やGX(Green Transformation:経済と環境を両立させる社会システムの変革)、AI(Artificial Intelligence:人工知能)に関する知識や技能などがその対象として挙げられます。
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